FIPを発症した我が家のネコと治療の記録 ※追記あり

雑記帳

6年前から、我が家には犬、猫が暮らしていて、残念ながら犬は2年前の夏に他界した。
犬も猫も保護施設や知人が助けたのを引き取った「保護犬」「保護猫」だ。

犬がこの世を去ってから、猫はやや情緒不安定になった。
一緒にいた頃は、それほど仲良く見えなかったし、どちらかというとグイグイくる猫を犬は苦手そうにしていた。

実際、猫の気持ちは分からないが、飼い主目線では寂しかろうと想像していた。
犬が去って翌年の春、猫の譲渡会を訪れる機会があった。
新しく猫を引き取ろうと思っていたわけではなかったが、今後の参考として見学してみたのだ。

そこで、何やら物憂げな表情を浮かべた猫と出会った。
といっても人間のような表情筋があるわけではなく、単に毛の生え具合でそう見えるだけなのだが。

来場者もケージの中にいる「困った顔をした猫」を見ては口々に「困ってる」と半ば面白そうに興味を抱くのだが、残念ながら引き取り手は現れないようだった。

犬も猫も同じだと思うが、引き取り手が多いのは子犬や子猫である。
すでに生後1年を過ぎており、見た目は大人と変わらない。
そうなると、人気が落ちるのだそうだ。
まあ、分からないでもないけど、譲渡会はペットショップで動物を購入するのとは違って、チャリティーの側面もあるから、そういう発想を持ち込むのはどうなんだろう?という気もした。

とにかく、この困った顔の猫に惹かれた自分は、家族と相談のうえ、保護活動家(でいいのか?)に引き取り希望を申し出た。
事務的なやり取りを何往復かした後、先方の都合もあって、我が家に「彼ら」がやってきたのは1か月以上後になってからだ。

彼ら、というのはタイプミスではない。
困った顔の猫には兄弟がいて、引き離したくないから一緒に引き取ってほしいと懇願されたのだ。
それなら、譲渡会の時に「2匹一緒に引き取るのが条件」と明記してほしかった気もするが、2匹なら要らないと拒否するのも人道的じゃないのかと思い、2匹とも引き取ることにした。

1年が過ぎようとした頃、困った顔の猫が、何となく痩せてきた気がした。
もともと痩せている方だけど、ほかの2匹がやけにゴツイので余計に目立つ。
一度、検診しておいて何もなければそれでいい、ということで病院へ。

7月26日 健康診断

「痩せてはいるけど、このくらいの体重で即異常とは言えない。脱水症状も起きてない」という見解。
血液検査の結果を見ましょう、ということに。

8月7日 健診結果と再検査

届いた健康診断の結果は「要再検査」
数値上、目立って悪かったのが貧血と炎症の度合いを示すデータ。
すぐにエコーで診察。
リンパが大きく腫れている。
後に、他の猫も診察したのだが、通常なら視認できるかどうかほどの大きさだ。
原因究明のため、すぐに細胞診とDNA検査を実施。
腹部に針を刺されて、しんどそうだった。

8月10日 細胞診の結果

先に来たのが細胞診の結果
採取した細胞を染色、顕微鏡で診察したものだが、結果は限りなくクロに近いグレー。
いわゆる「悪性リンパ腫」の可能性を示唆した結果だ。
特定の部位にできたガンではないので、外科手術で切除するわけにもいかず、基本的には延命治療くらいしかできないらしい。
まだ2年しか生きていないのに…目の前が真っ暗になる。
何があってもいいように、とりあえず抗がん剤を投与する。

さらに、今後何があってもいいように、古株猫が輸血のドナーになれるかどうかを診察。
病院へ連れていったら「立派な体格」と太鼓判。
後で分かったが、FIV検査も陰性、血液型も輸血に問題ないとのことだった。

8月13日 DNA検査結果 

やや遅れてDNA検査の結果が出た。
こちらはなんと「陰性」だった。
つまり悪性リンパ腫の可能性は低い…?
どっちが正しいのか?

検査結果を見ずして投与した2回の抗がん剤でもリンパの腫れは小さくならなかった。
そこへきてDNA検査がシロ。
獣医師いわく「細胞診は人間の目で診断するし、検体にも左右される。一方、DNAは機械による診断なので白黒ハッキリしている。この時点では悪性リンパ腫の可能性は非常に低いと判断する」
ホッとしたのもつかの間、悪性リンパ腫でなければ、次にどんな症例の可能性があるのか。

8月15日 マダニ原虫検査 FIP検査

ひとつひとつ白黒ハッキリさせるように検査する。
ひとつは「マダニ原虫」。
マダニなどを媒介して感染する細菌で、貧血などの症状がみられるらしい。
が、この地域では症例がなく、ほぼ可能性はないのでは、とのこと。

もうひとつはFIP(猫伝染性腹膜炎)。
猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)を原因とする病気で、ほとんどの猫が体内に持っていると言われている猫腸コロナウイルス(FeCV)の変異株が悪さをするらしい。
発熱、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少などの症状のほか、黄疸、腸間膜リンパ節炎などになる。
ほんの数年前までは、発症したら最後、有効な治療法はなく死を待つのみだったが、皮肉なことにCOVID-19(新型コロナウィルス)のパンデミックによる治療薬開発が、FeCVにも有効ということが分かり、完治はしないものの「寛解(かんかい)」するらしい。

8月18日 検査結果

マダニ原虫は大方の予想通り、シロだった。
一方のFIP検査も身体の中で炎症が起きている数値はあるものの決め手になるほどではなかった。

通常、FIPを発症した猫は食欲がガタ落ちして、食べさせようとしても嘔吐したり、腹を下したり、それでどんどん痩せていく。
悪化する速度は本当に早く、文字通り、目に見えて悪くなるのだそうだ。

が、我が家の猫は、とにかく飯を食う。
ステロイド剤を服用しているせいなのかもしれないが、健康な他の2匹よりも食べまくる。
いつの間にか貧血も改善した。

でも、体重は増えない。
食事以外は、けだるそうに横たわっている。
何らかの病気であることは確実だった。

8月20日 エコー検査 セフォベクリア投与

エコー検査してもリンパの腫れは引かず。
腹水が現れれば、そこから検査できるのだが、現れない。
この日はセフォベクリア(抗生物質)の投与で様子見となる。

FIPの典型的な症状が現れないので、県外の獣医大学から研究者がやってきて、そこでセカンドオピニオンを得ることにする。
ただし、その日は9月上旬。
とにかく、それまで持ちこたえるしかない。
これが、いまの優先事項。

8月23日 腹水が出てきた

わずかだが、腹水が現れてきたので、腹から針を刺して検体を採取する。
同時に血液検査で今の状況を調べる。
いくつかの項目が基準値を外れているが、大きくは外れていない。
ただし体内で炎症が起きている、という数値は1か月前よりも高くなっている。

8月25日 FIP確定

腹水からFIPウイルスが検出され、FIPのエビデンス(物証)が得られた。
「本来、腸内にいても異常ではないウイルスが腹水で検出されればFIPと診断できて、治療が始められます」とのこと。

FIP(猫伝染性腹膜炎)の原因となるウイルスが、通常は腸内に存在しているのは先述の通り。
しかし、何らかの理由でこのウイルスが突然変異を起こすと、腸内から血液中に侵入する。
血液から全身に広がったウイルスは、マクロファージ(体内の異物を取り込む免疫細胞)に感染、ウイルスは細胞内で増殖し、免疫システムを回避しながら体内に広がる。

FIPを引き起こすウイルスは、体の免疫系を強く刺激して過剰な免疫反応を引き起こし、血管や臓器にダメージを与えることで炎症を引き起こす。
これがFIPの典型的な症状である腹水(腹腔内に液体が溜まる)や胸水、リンパ腫、発熱などにつながるのだそうだ。

ウイルスが腹水に現れるのは、体内でウイルスが増殖して炎症が進行すると、血管透過性が増し、腹腔内に液体が漏れ出すからだ。
この液体(腹水)には、FIPを引き起こすウイルスが含まれており、これが検査で検出されるということは、FIPの確定診断となる。
通常、ウイルスが含まれた腹水は黄色がかっていて粘性も高いらしいが、我が家の猫は無色透明でサラサラしていたのだそうだ。

8月26日 FIP治療開始

すぐに猫を連行、今後の治療方針について説明を受ける。
が、こういう時代なので、おおまかなことはネットで入手できるほか、最近は生成AIの性能がすごくて、病院からもらった検診結果を読み込ませると可能性の高い症例をリストアップするとともに、治療法なども教えてくれる。
なので、治療にかかる期間も費用もだいたいは分かっていた。

今回、FIPの確定証拠が出たので、まずは早期治療が先決。
放置すれば、ウイルスが神経や脳細胞で悪さをするケースもある。
脳細胞や神経細胞が変性すると、二度ともとに戻らないのだそうだ。
そこが内臓などの器官と違うところなので、後遺症が残らないためにも治療を始めるべきだという。

そして費用。
SNSなどでまことしやかに囁かれている100万円前後の治療費。
友人から聞いた話だが、実際そのくらいの治療費をかけた知り合いがいたらしい。
比較的、物価の安い国でもそれくらいかかったのだそうだ。

数年前だったらその通りだが、いまはだいぶ薬価も下がってきたらしい。
我が家の猫がかかっている病院で扱っている注射用の薬を全日程で使用したとしても、30万円台から40万円台でおさまる(猫の体重にもよるが)。
診察料、検査料、薬価などトータルでも50万円くらいだったそうだ。

つまり50万円を最大値で考えておけば間違いない、ということ。
そのかわり、雨の日も風の日も毎日病院で注射を打たなければならない。

費用も大変だが、全員が働いている我が家では、診察時間内に猫を連れて行くのが至難の業だ。
医師からは「ご自身で経口投与の錠剤を入手してもらい、それを毎日自宅で飲ませるというのもありです」と提案された。

自宅なので、自分たちの都合の良いタイミングで投与できる。
それに海外で販売されている薬は、おおむね安価である。
ただし「安価」=偽物というリスクもある。
ネットやSNSでは玉石混交の情報が飛び交っている。
それは後で調べるとして、まずは今できることをやる。

9月1日 治療一週間経過

これを書いている時点で、7回目の注射が終了。
仕事の都合で2回目から5回目までの間、家を留守にしていたのだが、帰宅して猫の姿を見て驚いた。
足取りも軽く、うつろだった眼はハッキリとしており、力なく鳴いていた声もハッキリしている。
抱き上げてみたら、重さもある。
元気だった頃とほとんど変わらないほどの変貌ぶりだ。

そして今日病院で超音波診断。
残念ながらリンパの腫れは大幅に小さくなっている様子はないが、僅かながら小さくなっているとのことだった。
一方、腹水は完全になくなっていた。
獣医師は「投与6回での結果なら、まずまずのスタート」という認識。

飲み薬はというと、ある国に住む友人が「友達の猫もFIPにかかって、ここから薬を購入した」というサイトを見つけてくれた。
84日間フルで使っても6万円くらい。
GS-441524以外にもCOVID-19の治療薬として有名になったレムデシビルなどもあるらしい。
どれにするにせよ、海外サイトからの購入は
「購入したけど商品が送られてこない」
「薬は偽物だった」
など、いろいろなリスクをはらんでいる。
SNSやネットの表層的な情報だけをあてにせずに。
治療費は安くはないが、適切な処置をすれば寛解する病気なので冷静に対処しましょう。

9月7日 投与13日目 検査結果

10日目を過ぎた頃には、以前と同じように、もしくはそれ以上に活発になってきた。
これまであまり一緒に遊ぶことのなかった2匹とじゃれ合ったり、高いところへ飛び乗る場面も増えてきたような印象だ。

3本目のボトルを使い切ったところで血液検査とエコー検査。
血液検査では、これまで異常に高かったSAA(血清アミロイドA)、最大値では225以上だったんだけど、これが6.40まで低下した。
まだ基準値からはみ出ているが、ほぼ正常の範囲内。
ということは、体内での炎症がおさまったと言える。
総蛋白の数値から見ても明らかだ。
腹水もなく、リンパ腫は未だ肉眼で視認できるが、これも少しずつ落ち着いているらしい。
だいたい1か月くらいの治療で改善され、あとの2か月はそれを維持するための治療になるという。
まだまだ先は長い。

9月10日 経口薬投与開始

マレーシアから届いた経口投与型のGS-441524(以下GS)。
そこそこ高額なのにパッケージが雑な感じ。
何よりも大きい。

獣医師に「もしかしたら、そこそこ大きいカプセルで来るかも。飲ませられるだろうか」と相談したが「最悪の場合、開けてフードに混ぜるしかない」という判断。

もちろん、カプセル封入の医薬品なので、本来は口の中、食堂を通過、胃に入ってから初めて吸収されるように設計されている。
なので、バラして飲ませてもいいのだろうか?と疑問が残る。
「飲まないよりは、どうにかしてでも飲ませた方がいい」
医師としてはそういう判断。

初日は自信がないので、病院へ薬を持って行って医師に見本を見せてもらう。
大ベテランの先生でも「これは難易度が高い部類に入る」とのこと。

あるいは、メディボールのようなものに入れて飲むかどうか試す。
いまはまだ注射薬の残りがあるので、注射と経口投与を一日おきで出来るが、空になったら飲み薬だけでやるしかない。
がんばれよ、猫!

9月15日 経口薬投与継続中 飲ませるコツ

不幸中の幸いだったのが、FIPを発症した猫が比較的従順だったこと。
こいつの兄弟猫だったら、捕まえることすら不可能に近い。
無理に捕まえようとするものなら…

ごらんの通り。
ただ、フードに混ぜると、異変に気付いて食べてくれない。
もしかしたら、人間には感じない匂いがあるのかもしれない。
犬の時もそうだったが、薬を飲んでくれないのはこちらもストレスフル。
なので、医師のまねごとをしてカプセルを飲ませることにした。

YouTubeで「猫 投薬 カプセル」と検索すると猫の投薬方法の動画がたくさん登場する。

個人的には、これがいちばん分かりやすい動画だった。
猫の性格にもよるのだろうが、テーブルなどに猫を乗せて、自分との距離が近い方がやりやすいかも。
床で猫を股に挟むやり方より、良いと思う。
いずれにせよ、猫との信頼関係が大事なので、この頃は薬を飲ませるポジションを嫌がらないように普段から身体を抱えるようなスキンシップを続けている。