2024年03月20日 Z1Rのステーターコイルを純正部品でアップデートしてみる

Z1R-II

一般的なバイク乗りの走行距離の平均値は分からんけど、自分は乗っていない方だと思う。
昨シーズン終了辺りから1年間の走行距離をカウントしたら5500kmだった。
いつぞやは車検から車検の間、数百kmしか乗らない時期もあったし。
電車通勤でも年間2万キロ乗っていた時期が懐かしい。

部品の摩耗や消耗による致命的な不具合が見つからないまま今に至っているが、ここが壊れたら厄介だな、というのがいくつかある。

そのひとつがステーターコイル。
ダイナモカバーで密閉されていて、原則的にオイルも抜かなければならないので気軽には覗けない。
日常、マメにチェックしていれば予兆を感じ取れるかもしれないが、電装系トラブルは「ある日突然に」やってくることもある。

ステーターコイルとは何ぞや?

そもそもステーターコイルは、何を担っているパーツなのか。
「いまさらかよ」なんて言わないでお付き合い頂きたい。
かつての自分がそうだったように、いろいろ調べながらバイクライフを楽しんでいる新しいバイク乗りも居るだろうし。
何十年もバイクに乗っている自分も、所詮は素人でニワカみたいなものだから。
敷居が低いのも「空冷Zとの戦い」のセールスポイントです(笑)。

ステーターコイルは何のために必要かというと、小さなものならウィンカーやメーターパネルの照明、大きなものならセルモーター、ヘッドライトやスパークプラグ、これらの電力の元として使われる。

「バッテリーが電気を作り出すんじゃないの?」

もちろん正解。
でも、スターターを回したり、ヘッドライトをつけたり、インジェクションが動かしていくうちに、バッテリーも使っていけば、スマホの電池のようにどんどん減っていく。
でも何故かそうはならず、走っている限り「バッテリー上がり」にはならない。

何でか?

「そりゃ走ることで充電されるからじゃないの?」
その通りなんだけど、どうやって充電しているのか?
「エンジンやスプロケット、タイヤが回る動きを利用して、電気を発生させているんじゃないの?」
と想像しているなら、ほとんど正解。
大雑把にいえば、自転車のライトをつけるダイナモと同じ…とか言ったら、最近の自転車は電池+LEDが多いのね(笑)。

いずれにせよ、回転運動が電気を生み出すのは理科でやったでしょう?
電力と磁石と力の話。
磁石とコイルを使った回路に電気を流すと力が生まれる。
バイクとかクルマもエンジンの軸(クランクシャフト)がものすごい速さで回転している。
軸の先端には筒のように成型された磁石、マグネットローターがついていて、その外側か内側にステーターコイルがおさまっている。
ローターがグルグル回るとコイルが電気を発生して、バッテリーに電気を送り込む。

理科でやったかと思うけど、モーターの軸を指で回転させると、電気を発生して、モーターの線に電球をつけると回している間は点灯する…あれとほぼ同じことをやっているわけです。
ちなみに自転車は速く漕ぐほど電球が明るくなる。
バイクや車も同じようにエンジンの回転数が上がるほど、ステーターコイルが作り出す電気は大きくなるが、そのままバッテリーに電気を戻すとあっという間にぶっ壊れる(厳密に言うとコイルが生み出す電気は交流だから、電圧が低くてもそのままバッテリーには繋げられない)。

そこで登場するのが、レギュレーターレクチファイア。
交流を直流に変換して、かつバッテリーに合わせた電圧に整えてくれる。

というわけでステーターコイルは目立たないけど、電装系の源流といってもよく、あまり目立たないけど重要なパーツのひとつなのだ。

純正パーツは製造中止だが、幸い国内外のメーカーが今なお空冷Z用のステーターコイルを製造販売しているので、部品の入手にはそれほど苦労しないと思う。
日本製にこだわるなら、レストアを手掛ける電装系の会社もある。
納期や費用はASKらしいけど、銅線や人件費が上昇しているから、海外製品の新品の方が安いかも?
どっちかといえば、職人さんの仕事には興味あるけどね。

ステーターコイルの他車種流用を試みる

前置きが長くなってしまった。
今回は海外サードパーティーの製品でもなく、職人さんによるリビルト品でもなく、カワサキ他車種純正部品の流用。
純正部品だと安心感が違うでしょ?
だったら新品を買えよ!という話なんだけど、3万円以上しますからね(笑)。

何となくだけど、FXやMk2など角Zのステーターコイルは、このバイクと同じ寸法なのではないか、と予想していた。

選んだのがKLX250もしくはDトラッカー。
きっとこれが合うはず…!こういう「目勘(めかん)」でいろいろなパーツを買い漁って失敗することもあり、ガラクタが山のように集まるのはサンメカ・ライフを送っているライダーの共通点。

ヤフオクの壮絶な死闘をくぐり抜けて勝ち取った中古品。
もちろんノークレーム・ノーリターンは覚悟の上。
製作時期は違うけど、チェック項目は同じ。
三相のリード線それぞれを組み合わせた時の抵抗値とショートの有無。
どれも0.7Ωとか0.8Ωなので問題なさそう。
それよりもサイズが合致するか、ここが重要。
直径や内径は純正空冷Zのステーターコイルと同じ。
でも、厚みがやや違う…クリアランスの違いが致命傷になるか否か?

東日本大震災で津波の直撃を受けたエンジン…こいつをダミーにして寸法チェック。
ところが、以前ステーターコイルを抜く時にボルトを舐めてしまい、やむなく1本だけボルトを切断してステーターコイルを摘出した。
カバーを使うためには折れたボルトを抜かねばならない。
こんな時はどうするか。

今回は運よくダブルナットで摘出できた。
と、書けば簡単な話なんだけど、10年以上ほったらかしにしていたので、ネジ山が腐っていた。
ダイスという工具でネジ山を切り直してから、ナットを二つ締める。
雑巾を絞るようにして、お互いを締め付け、ほとんど固着状態にしてやったら、ネジ穴の隙間に潤滑剤を吹き付けてやる。
実際、隙間なんかないんだけどイメージね。
その時、軽くプラハンで小突いてやる。
振動で緩めるわけじゃなくて、一瞬できた隙間に潤滑剤がしみこんでくれたらいいな、くらいの感覚。
なので、親の仇のように叩きまくってはいけません。
ネジ山も肝心の母材も破壊してしまうから。
時間があるなら、ここで一昼夜待った方がいいでしょう。

そしたら、今度はトーチで焙る。
焙りまくって焙りまくって、ああもう冬なのに汗かいてきた!ってくらい焙ります。
そしたら、ダブルナットをグイっと回してやる。
自分はインパクトドライバーで回してやりました。
すると、どうでしょう。
スルリ、と抜けてくれました。

これ、失敗すると途中でネジが折れて、これ以上はエキストラクターとか内燃機屋さんのお世話になるしかないので作業は慎重に。

カバーにステーターコイルを取り付け、いちばん出っ張っている部分…ここでいうとマウント・ボルトの頭に養生テープを貼ってからエンジンを組み付ける。
何度かクランキングして、養生テープに擦過傷ができていればマグネットローターが当たっていることになる。
どうやら大丈夫みたい…マグネットローターに個体差があったらアウトだけど。
こればかりは実機に組み付けて確認しないとわからない。
ダメだったら、この津波エンジンを復活させるしかない(笑)。

現行車両をはじめ年式が新しいバイクは、そんなこと気にする必要はないけど、40年前のバイクはあっちこっちのパーツが「このモデルは別のパーツが存在する」だとか年式や仕様によって微妙に違うことは日常茶飯事。
今でこそ、ネットで検索すればディープな情報を誰でも入手できるが、当時は一部のエンスーやマニア
しか知らない情報なんてのもたくさんあった。

配線加工

まずは従来の三相リード線を撤去。
新品だったらそのまま使っても構わないのだけど、結構ヤレ感があるので新品に交換。
以前は「多少、太かったら何でもいいだろ」くらいの感覚だったけど、今回は耐熱電線を使用。
ちょっとお高いんだけど。

後でも触れるが、配線の長さはレギュレーターの位置、取り回しによっても変わる。
あまりオススメはしないけど、純正と同じようにクラッチレリーズカバーの中でギボシで結線したいなら、1本30センチもあれば十分だけど、レギュレーターまで直接結線して、さらに位置も遠いところに…という場合は、1メートルでも足りないかもしれない。
ここでケチって「つけたい場所に届かなかった」では悲しいので、長めに確保しておく。

エナメル線とリード線の結線方法はいくつかあるけど、はんだ付けオンリーはやめた方がいい。
一見、確実なように見えてバイクや自動車のように激しく振動するメカは、はんだづけした硬い部分を割ってしまうこともある。
やるならカシメで十分。

純正品はカシメ+はんだづけだったので、それに倣う。
樹脂コーティングされた絶縁スリーブを再利用したかったので、スリーブにおさまる小さな端子を加工。

以前、ここの結線不良で断線したと思ったことがあったので、確実に。
結線したらテスターでチェック。
組み付け終わったら動く部分ではないけど、結線したところを動かしてテスターが振れるようなら接触不良というか結線ミスの可能性もある。

とりあえず、この状態で一晩放置して、出来上がったのがこちらです(笑)。
この段階でも抵抗値をしつこくチェック。
特に結線したところをいじって、抵抗値が変化したら要注意。

組みつけ開始

ここまでくれば、もう峠を乗り切ったようなもの。
グロメットに線を通し、配線の末端にコネクタを取り付ければ終わり。

と、その前に。
ステーターコイルをマウントするダイナモカバーを洗浄。
長年放置していたせいで、出土品のような汚さ。
実際、東日本大震災で津波に流され、2か月くらい海水に浸かって風雨にさらされて保管…という名の放置状態だった。
とにかく、このままでは使えないので洗浄しておく。

表側はまだしも、ダイナモカバーの内側はすなわちエンジンの内側でもあるので、汚れているのは極めてよろしくない。
汚れだけではなく、砂埃や土のようなものまでついている。
気の利いた洗浄剤がないので、飽和重曹水を作って汚れを落としてやる。
洗っても落ちないエンジンの汚れは大半が油脂類によるものなので、アルカリ性の重曹水で分解していくのである。

水よりお湯の方がいいし、飽和重曹水は一度沸騰させることが重要らしいので…

手っ取り早いやり方だけど、見つかったら、まず間違いなくお母さんや奥さんに怒られるヤツ。
当然ながら我が家も一発アウトなので、怒られないうちにバケツへ移す。

裏も表もお湯に浸かるようにして一昼夜くらい漬け込んでおく。
こびりついたガスケットの残りなどもキレイに剥がせるハズ。

ここから、いよいよグロメットの組み付け開始。
こういうところにも以前使用していたガスケットの残骸が残っているので、マイナスドライバーなどでこそげ取る。
あまり強くこするとパーツも傷つけるので、ヘッドの小さい歯ブラシなどが良いかも…


仮組して様子を確認。
ジャストフィットするのが当たり前、と思うかもしれないけど、旧い車体は何があるか分からない。
後で泣きたくない箇所なので入念にチェック。

グロメットに線を通す時、気をつけたいのが三本の線をそれぞれどこに通すか。
ステーターコイルは結線した側がダイナモカバーの裏側を向くことを忘れて線を通すと、グロメットをダイナモカバーに差した時、線がこんがらがることも。
最悪、180度反転しても線は柔らかいので大丈夫だけど、出来るだけストレスはかけたくない。
ねじれ、よじれがない組み合わせを選びましょう。

ここまで終わったら、やり直しが効かない作業その1。
グロメットの穴をエポキシ接着剤で塞ぐ。
2液性のヤツね。
本来だったらモルタル躯体のクラックに注入する粘度の低い接着剤が隅々まで行き渡るからいいんだけど、数滴のためにお金かけるのはナンセンスなので、市販の接着剤で良いでしょう。
ただ、あまり粘度が高いヤツだと全体に行き渡らないこともあるので、要注意。
実は今回、不安にかられて盛り過ぎたらキレイにならなかった(笑)。
自分なりにキレイに出来たと思うので、以前の写真を載せておきます。

グロメットからのオイル漏れは持病みたいな風潮があったけど、この方法で漏れたことは一度もない。
速乾性の接着剤だと15分で硬化するけど、急いで作業をする必要がないので一晩放置。
この手の作業は、気持ちが前のめりにならない方がよい。
カップ麺の3分を待てない人は要注意。
硬化を確認したら、グロメットをダイナモカバーに埋め込む。
ここに液体ガスケットを塗った記憶があまりないのだけど、グロメットのパーツメーカーは液体ガスケットを薄く塗布することを推奨しているので素直に言うことを聞いておく。
昔はこの隙間にもガスケットメイクを充填していたけど、経験上、漏れてきたオイルを外から停めるのは不可能。
素直にバラシて組み直した方がいい。

で、ここもメーカーに倣って治具で押さえ込む。
治具といっても、穴の開いた鉄の板を利用したもの。
普通の人にはゴミに見えるようなものでも「いつか役に立つ」とか言って取っておく。
断捨離、ミニマリストとは真逆の方向だけど、これがサンメカ道みたいなもの。
何に使うんだ?と自分でも疑問に思うモノも沢山あるんだけど、何年後かに日の目を見ることもある。使い終わったら捨てるのではなく、またガラクタ箱に入れて次の仕事に備えてもらう(笑)。

一晩、置いてグロメットも無事にマウントされた。
若干、ほんの0.2mmとかそれくらいだと思うけど、ツライチになっていない気がする。
でもラバーが柔らかいので、ガスケットをはさんでエンジンに組みつけたら、追随してくれるはず。

ステーターコイルをマウントするボルトをネジ箱から選んでいるところ。
サビに強いステンレスボルトも沢山あるんだけど、総合的に判断して純正に準じた鉄ボルトを選択。
ステンはNG、ステンでもOKという論争は尽きないんだけど、個人的にはTPOを理解したうえで使用するならステンもOKだと思っている。

「電蝕が起きたらどうすんの!」という人もいるけど…電飾てのは、違う金属同士が接触して、そこに水分などが入るとお互いの「電位」の違いによって腐食する、という「ガルバニック腐食」と呼ばれる現象なんだけど、鉱物系のグリスでごまかすこともできる。
そして、厳密にいうと、同じ金属同士でも微妙に成分が違うから、結局、電蝕からは逃れられないという(笑)。
気がおさまるか分からんけど、ヘリサートもステンレスという事実を知るとバカバカしくなる。
ガルバニック腐食よりも、強度とかカジリの問題があるからステンボルトを使っちゃいけないところには使わない、というロジックが大事かも。

サービスマニュアル的には、ステーターコイルの締め付けトルクは0.9kg-m~1.1kg-mで。
三本線を押さえ込む板みたいなの(Lead holding plate)を止めるボルト(純正はプラスねじ)は「強く締めてね」だそうです(笑)。

車体へのマウント

一気にコネクタ結線までやりたいところだけど、まずはダイナモカバーを取り付けて、配線の取り回しを決めてから。
前の配線と同じ長さで決めてもいいんだけど、レイアウト変更の可能性もあるのでコネクタをつけるのは最後の最後にしておく。

とりあえず、100円ショップの台所用品で造った電装品マウントをそろそろ交換。
某所から引き取った廃材を使ってマウントを自作。

あちこち穴が開いているのは、そういう廃材だったから。
カッコ悪いけど、いろいろ載せると隠れるからOK。

フィッティングは問題なし。
だけど、いかにもアルミ板に乗っけました感が強すぎる。
レギュレーターを後ろ側にもっていって、裏に隠れているスターターリレーを前に置く?

今回もステーターコイルからレギュレーターまで伸びる線は直結。
ご存知の通り、純正配線はダイナモカバーからちょっと出た付近でギボシによる結線。
クラッチレリーズカバーの内側だけど、エンジンの熱にさらされて結線箇所が傷みやすい。
正直、ここでバラせる仕様でもあまり意味がない気がするので、レギュレーターからカプラまで切らずにつないでいるのは、PAMSさんの作例を参考にさせてもらっている。

どうしてもバラせるようにしたいなら、せめて車体側まで伸ばしてカプラで繋ぎたい。
KLXの純正品もそういう仕様になっている。

レギュレーター側につくのは、古河電工QLW防水シリーズの3極コネクタ。
正規品を購入すると端子とセットで2000円くらいする高級品。
安いのも出回っているけど、しょっちゅう替えるものじゃないからマトモな商品を選びたい。

いよいよ既存パーツを外して新しく組み上げたステーターコイルをマウント…
ところが、諸事情により工事を一時中断!
続きは、もう少し後になってから!!

つづく!!