初心者や機械いじりが苦手という人でも、車載工具はあった方がいい。
と言いつつ、自分では持って行ったり、持って行かなかったり(笑)。
実は我が家のZ1Rは車載工具の一部やサービスマニュアルまで付いていたのだが、どんどんカスタムしているうちに、うまいこと工具を載せることができなくなってしまった。
遠くへ出かける時は、持ち歩くようにしているのだが、数キロ先でトラブって「ドライバー1本、レンチ1本さえあれば余裕なのに」と悔やむこともあるだろう。
というわけで、新旧問わず出かける時には車載工具は持参した方が良い。
とはいえ、付録の工具をそのまま持参しても、使う場面がないものもある。
ドライバーやレンチならまだしも、これをどう使うのか、分からない人もいるだろう。
たとえば、リヤショックのプリロードを調整する「ピン・スパナ」。
確かに使いこなしたら便利なんだけど、出先で使うような代物ではない。
それにトラブルを自力で解決できないようなら、持って行っても意味がない工具もある。
メジャーで致命的なトラブルといえばパンク。
クルマならスペアタイヤを持っていれば15分くらいでどうにかなる。
しかし、バイクだとそうはいかない。
チューブタイヤなら、ホイルを外してタイヤを剥いて穴の開いた場所を探してパッチを貼って…
という作業が必要になり、使う工具もそれなりの数。
そして、自分で出来る、ということが大事で、出来ないのに持っていても荷物になるだけだ。
それなら、ボンベ式の応急修理剤を入れておいた方がいい。
ただしボンベ式の修理剤は、一度使うと、タイヤとホイールの内部は修理剤でデロデロになっているので、要注意。
昔からあるチューブレスタイヤの修理キットは、こちら。
これで、どうにか帰還するなり、バイク屋に直行すれば「レッカー代」も要らない。
パンク対策については、これ一本でOK。
というように、想定される問題(まさにproblem)を解決する手段を用意することが重要。
遠くを走っていてコレが起きると真っ青になるのが「クラッチワイヤーの断線」。
運転のコツを知っていれば、割とどうとでもなるんだけど、峠の上り側、しかも渋滞のような場面で遭遇すると、帰宅難民になること間違いない。
裏技はあるにせよ、トラブルシューティングとしての近道は「予備ワイヤーを積んでおく」こと。
そんなにしょっちゅう起きるトラブルではないにせよ30分もあれば大丈夫だろうし、自分で出来ないようなら、どうにかバイク屋まで辿り着ければ直してくれる。
でも、今回は「自分で修理する」がテーマなので、実際、ワイヤー交換はどういうアプローチが必要なのか、どういう工具が要るのかを確認するところから始めよう。
ハンドル側およびエンジン側のワイヤー末端を外すのに必要な工具は何か?
重要なのは、ボルト&ナットのサイズや+-のネジを見ただけで判断せず、実際に工具を当てること。
「ここのネジ(ボルト)は、他のヤツと共用だから、大丈夫だよね」
なんて高を括っていると「他のパーツが邪魔で届かない」とか「メガネレンチが使いづらい」ということも。
100%間違いないサイズなのに、使えない、あるいは不便な工具を持ち歩くことになるのは辛すぎる。
「だったらスロットルワイヤーも持ち運べばいい」
と思うかもしれないが、思いのほか、スロットルワイヤーは切れない。
自分でサイズ変更したワイヤーのタイコを飛ばしたことはあるけど(笑)。
ハンドル側のタイコがホルダー内部に収まっていて雨風に当たらないのと、力のかかる向き、そしてかかる力そのものがクラッチとは違うからだろう。
仮に持って行くにしても、クラッチワイヤーと違って途中にアジャスターがないから、収納性はものすごく悪いのは、新品未開封のワイヤーを手に取れば分かる。
折り畳めないワイヤーを持ち歩くとなると大変だし、交換作業もスロットルをバラし、カウルも外し、タンクも外し…とこれを路上でやれと言われたら、相当ハードルが高い。
不運にも「開」側のワイヤーが切れたら、どうしたらいいか。
どうにかバラせるなら「開」側と「閉」側のワイヤーと入れ替えてやることで助かる場合がある。
長さが足りなかったら、無理だけど。
オフ車や小排気量のようにワイヤーが一本のバイクだったらどうするか?
その時は、アイドリングスクリューを3000RPMくらいになるようにして、その勢いで走る。
メジャーなトラブルとして代表的なのが「転倒」によるダメージ。
車体がぶっ飛ぶような大事故では自走で帰還は難しいかもしれないが、破損箇所によっては何とかなる。
たとえば、クラッチレバーが折れた場合なら交換すればOK。
ただし、ホルダーごと折れたら、かなり厳しい。
こんな感じね(笑)。
こうなってしまうと、予備のレバーも意味がない。
折れ具合にもよるが、例えばホルダーごと針金で縛り、ガッチリとペンチで絞り込んだらクラッチが握れるかもしれない。
ということは、このトラブルを解決するのはスペアパーツではなく「針金」と「ペンチ」「プライヤー」となる。
フロントブレーキのレバーでも同じだが、こちらは最悪リアブレーキだけでやり過ごせる。
同じ理屈で最悪なのが左側に転倒、チェンジペダルを壊してしまったケース。
昔、雨のダートロードでスリップダウン、運悪くチェンジペダルを破損したライダーがいた。
1速だか2速のまま動かせず、ずっとそのまま走ったせいでミッションがイカれたらしい。
これも、ステップの代わりに棒(ドライバーでも代用できるかもしれない)を突っ込み、針金とスパナなどをうまいこと巻きつけてやったり、バイスプライヤーでシフトを挟み込んでやれば、チェンジペダルの代わりになるかもしれない(いずれの方法も、脱落には十分注意。路上に落とすと二次災害を引き起こす)。
ちなみに、リアブレーキだけを壊したのなら、十分に自走は可能だ。
というわけで、この手のトラブルシューティングには針金、ダクトテープなど、パーツ同士を強力に固定するアイテムが必要だ。
固定用として強いのが速乾性のパテ(主にエポキシ樹脂)。
針金がうまく回せないような場所は、パテで固定するのも良い。
たとえば、クランクケースを割ってオイルが漏れ出すような場合だ。
パテとダクトテープで封じれば、これもまたどうにか帰還できる。
不意の破損、転倒時のダメージなど原因が分かれば落ち着いて対処も出来るだろうが、厄介なのが走行中、不意に動かなくなってしまった時。
恥ずかしい話だが、買ったばかりのバイクで「ガス欠」をやらかしたこともあるので(これが、案外、ベテランライダーでも経験する)、ガソリンタンクの蓋を開け、燃料が流れているかどうか、さらにはストレーナー(燃料のフィルター。中古車両だとタンク内部がサビていて次第に目詰まりを起こすこともある)をチェックしていた方がいい。
もちろん新しいマシンではそんなことは滅多に起きないだろうから、ガス欠以外でバイクが停まったら、かなり厄介だ。
次に疑うとすれば「電気」なのだが、配線図を見てもらえば分かるように、どこから手をつけていいのか分からないほど複雑怪奇。
そのためにフューズが多系統に分かれているのだから、まずはフューズボックスを開けてみる。
切れているフューズがないか、一通りチェックする。
もちろん、フューズボックスには予備のフューズを搭載しているのが大前提、フューズを外すためのラジオペンチもしくはフューズクリップがないと調べようがない。
切れているフューズを見つけても、喜んでいる場合ではない。
切れたのは結果であって、原因は他にある。
つまり、これを交換したところで、またすぐに切れる可能性がある。
「走らなくなった」ということは、メイン系、イグニッションコイル、あとホーンも実は危ない。
ここらがおかしくなっていないか、ETCやUSBソケットなど後付けパーツとの関係は?
あまり意味がないかもしれないが、こういうパーツをキャンセルしてやる(フューズを外してやる)ことで、動いたりすることもある。
旧いバイクで配線が単純であればいいのだが、インジェクション車両をはじめ、もっと古い年代でも電子デバイス(YPVSなど)で動いているバイクだとお手上げだ。
最新鋭のマシンこそ、普段のメンテナンス、ショップでの定期点検が必要だったりする。
走行できないほどじゃないが、ヘッドライトだのウィンカーだの灯火類のトラブル。
これも案外困るトラブル。
常時点灯が義務付けられている車両では整備不良になるし、何より危険度が増す。
ウィンカーも街中を走れば、使用頻度が高いし、交通量の多い場所でブレーキランプが切れたら、追突事故を誘発してしまう。
最近はヘッドライトもLEDになっていたりするが、まだまだH4バルブも多いだろうから、この辺ならホームセンターでも手に入る。
ウィンカーの球切れはスペアを収納しておくか、手信号で乗り切る。
いずれにせよ、どの場所にどの球を使うのか、どうやって電球までアクセスするのかは、サービスマニュアルを入手してチェックしていた方がいい。
仮に99%書いてることが分からないにせよ、自分では整備することがなくても、持っていた方がいい。
もしかしたら、ここに書いてあることの一部でも知っていれば、トラブルを解決できるかもしれないし、高い修理費用やレッカー代を払わずに済むかもしれない。
ちなみに、我が家のZ1Rの場合はこんな感じ(2020年9月頃)。
電気系統に疑わしい部分があったので、テスターと予備の配線を入れている(これとは別に端子がついたマルチな配線もある)。
スパナが少ないと思われるかもしれないが、メインで使うのは10mmと12mm。
14mm以上は使うところが限られているし、路上でどうにかするのはムリだと思われる。
使わない工具を沢山入れても仕方ないので、あとはモンキーとプライヤーで何とかする。
写真にはないけど、折り畳みナイフのような六角レンチが束になった工具もあるが、慣れないと使いづらいので長くて先端がボール状になったセットを入れておくのも良いかも。
ただし、これも車体についていないサイズのレンチを持ってても無駄でしかない。
もし、迷っているようなら、最初からセットになっている工具を買ってもいい。
たまに立ち寄るストレートで販売しているこういうセットでも十分だし、良いものが欲しいのであれば、MACツール、Snap-on、ゴージャスな雰囲気が好きならNeprosなどがあるけど、素人サンメカには高級すぎる。
KTCやTONEでも十分に使えるどころか、お釣りがくるほど。
20年近く使っているけど、何の問題もない。
ちなみに、ドライバーなど「回す工具」でお気に入りなのが、Vessel(ベッセル)。
何本か買ってみたけど、タフだし使いやすい。
コレを言うと身も蓋もないけど、最悪100円ショップの工具でも何とかなる(笑)。
ただし、100円ショップの工具を普段使いに選ぶと、パーツよりも先に工具の方が壊れることも。
大昔、海外を走っていた頃、K-MART(元祖ホームセンターのような店)でセットの工具を買ったんだけど、さすがに耐久力は無かった。
数年は使えたけど、やっぱり工具メーカーが売っているものは使いやすさが違う。
「ビギナーのくせに道具だけは一丁前」と笑う人もいるけど、初心者だからこそ、良いものを揃えたい。
良い道具は手にもしっくりくるし、愛着もわいて「ちょっと使ってみようかな」と興味を持つきっかけになるかもしれない。
以上、工具のお話でした。