The Breakways to Leonora
真夜中から明け方にかけて、何度かひどい寒さで目が覚めた。
キャンプファイヤーからの流れで、そこそこ暖かいと、薄っぺらい毛布一枚で寝たのがまずかった。昔、砂漠でキャンプした時、寒さで震えながら夜を過ごした記憶がよみがえる。
ここで、マットとの出会いをもう一度おさらいすると共に、旅の仲間を紹介しよう。
彼と出会ったのは1997年の7月。
シドニーを出発して2ヶ月が過ぎた頃、バイクのマフラーは白煙をあげるようになり、何と1,000km走るごとに1リットルものオイルが燃えていた。
車、バイクのエンジンに詳しくない方のために解説すると、エンジンオイルはエンジン内部で動く部品を摩耗から防ぐ潤滑油。
エンジン内部にくまなく行き渡っているが、噴霧状になったガソリンの通り道、ガソリンが爆発する部分には漏れないよう、厳重にシールされている。
が、走行距離が伸びて各部の部品が摩耗、密閉力が低下するとエンジンの内外にオイルが漏れてくる。
内部に漏れたオイルはガソリンと一緒に燃えるのだが、本来、燃料ではないものが燃えているため、エンジン内部の部品にタール状の煤が蓄積、やがては動作不良の原因となる。
もちろん、外に漏れれば、落ちたオイルにタイヤが乗ってスリップすることもある。
1,000kmで1リットルのオイルが減るのは「故障」に近い。
オイル漏れ(オイル上がりもしくはオイル下がり)の対処法は、エンジンを全部バラバラにして摩耗した部品を交換する「オーバーホール」しか道はない。
前に乗っていたZ1Rでも経験があるのだが、オーバーホールの相場は少なく見積もって2,000ドル。
当時の日本円で20万円弱。
場合によっては、中古のオフロードバイク1台に手が届こうとする金額だ。
そんな時、助けてくれたのが、当時のZ オーナーズクラブWA支部のプレジデント、ジョンと大幹部のマットだった。
マットはある友人(たしかヤマハのバイク屋に勤めている人)に頼んでくれて、何と500ドル(多分、部品代とちょっとの手間賃)でオーバーホールしてくれたのだ。
本当にありがたい話である。
帰国してからも、マットとは連絡を取り合うことが出来た。
マットが”IT ガジェット”に詳しかったのと、奥さんが日本の方なのが大きかった。
これまで何度か訪ねてくれたこともあったし、2016年にはワタクシのZ1Rで仙台~和歌山までのロング・ツーリングを実現させた「筋金入り」のモーターサイクリストだ。
マットの息子、カイ。
お菓子大好き、ゲーム大好きの男の子。
でも、サッカーをプレイするスポーツマンでもある。
お姉ちゃんにもお土産を買うのを忘れない優しいところも。
ソルジャー(仮名)
五輪追加種目で注目を集めるスポーツ・クライミングの選手。
クライミング選手は、たいていマラソン選手のようにスレンダーだが、格闘漫画の世界から飛び出してきたような身体つき。
中学では学校トップの脚の速さ、握力75kgの怪力を誇るフィジカル・モンスター。
脳内では常に何者かと戦っていて、何故か小さな子供や動物を引き寄せる力を持っている。最近はそのいでたちから、ソルジャーと呼ばれている。
寒さで二度寝三度寝しつつ、目を覚ますと、マットが既に起きていた。
焚き火にも火が着いている。
どうやら、ガンガン火を燃やしたおかげで、置き火が残っていたようだ。
「コーヒー飲む?」
「ああ、いただこうかな」
と、マットがよこしたのが、不思議な道具。
500mlのペットボトルくらいの大きさ、ややゴツい水筒。
「何これ?」
「これでコーヒーを入れるのさ」
そう言うとマットは食糧を入れたラゲッジ・スペースから、ガムシロップやミルクが入っているような容器を取り出した。
ガムシロップは透明、ミルクは白だが、それは真っ黒だった。
「この中にコーヒーが入ってるのさ」
水筒のような道具のキャップを外すと、コーヒーをセット。
反対側を外したら、そこにお湯を入れる。
そしたら、今度は、筒の真ん中にあるポンプを押しまくる。
プレ・ヒートする前のストーブのポンピングにも似ている。
ほどなくして、カートリッジを入れた方からコーヒーが出てきた。
「これで美味いコーヒーが飲めるというわけ」
写真がなくて申し訳ないけど、このポータブル・エスプレッソマシンは旅の間、本当に助かった。
朝は炭火になった焚き火で、ベーコンサンド。
これまたマットがよく行く肉屋のベーコン。
これが、また美味い。
前の晩に食べたハンバーガーで使ったレタスやニンジンでスクランブルエッグを作る。
マットは「レタス、火を通すの?」と驚いていたけど、日本人親子は野菜を食べないと落ち着かない。
朝食を済ませると、ハエが寄って来ないうちに出発(実際は日の出と共にハエがやってくるのだが)。
10時頃、カルグーリー(Kalgoorie)という街に到着。
人口は4万人だが、金鉱で有名になったオーストラリア版ゴールドラッシュで大いに賑わったところだ。
今も、中心部に人が集まっているのと、観光客が集まるせいで、街並みには活気があるように見える。
大陸横断鉄道、インディアン・パシフィック号の停車駅でもあるので、訪れたことのある日本人も多いのではないだろうか。
「買い物と車の点検をしたいから、子供たちを博物館に連れて行ってくれ。あとで合流してメシを食べよう」
マットは我々を降ろすと、どこかへ行ってしまった。
残された3人は博物館へ。
子供もたくさん訪れるせいか、それほど難解な言葉ではなかったのと、展示物のおかげで、大雑把だが街の歴史を知ることが出来た。
敷地内には、ちょっとした展望台があり街を一望できる。
何しろ無料なのがありがたい。
しかし、あまり無料ばかりがはびこるとよろしくないので、お土産を買うなどして売上に貢献(いばれるほどじゃないけど)。
昼過ぎ、マットと合流。
何でもキャンパーの足周りを止めているボルトが外れていたらしく、自分で直していたんだそうだ。
おかげで、背中が埃だらけ…
とりあえず、腹が減ったのでハングリージャックへ。
体重管理が必要なソルジャー、いきなり巨大なハンバーガーをチョイス。
ワタクシはサブウェイが思いのほか高かったので、ノーマルハンバーガー単品。
だって2人で2000円ですからね。
一体どんなサブウェイに入ったかと驚くばかり。
いったい、どれくらいのカロリー数なのだろう、とチェックしたけど、オーストラリアはカロリーじゃなくてジュール(笑)。
カルグーリーから小一時間ほど北上し、1軒のロード・ハウスに停まる。
Broad Arrowと呼ばれる小さな店だが、ご覧のように客の寄せ書き?がたくさん。
誰でも書けるのかと思いきや、一応、お店でマジック(2ドル)を購入するのが掟(でもGearWrenchのマーカーだったりして、そこらへんがオシャレ)。
もちろん、我々も書いてきましたよ。
オーストラリアには、こんな風に特徴のあるお店がいっぱい。
昔、ダーウィンへ行く途中の店には、どういうわけか、店中にブラジャーがたくさんぶら下がっていたし。
さらに北上、ナイアガラ・ダム自然保護区(ナイアガラ・ダム自然保護区 Niagara Dam Nature Reserve)へ。
ナイアガラというくらいだから、さぞかし広大なのかと思いきや…
確かに面積は広大な感じだが、肝心の水が干上がっている。
「ここで水浴びが出来るぜ!」
とワクワクしながら訪れたのだが…残念でした。
しょうがないので、ちょろっと見ただけで撤収。
そのかわり、コッキニー(Kookynie)という街に行ってみる。
「ゴースト・タウン」とガイドには載っているが、日本語でいえば「廃村」とか、そういうことでしょ?
開き直って観光地化してるのか?
良く分からないまま行ってみたら、本当にゴースト・タウンだった。
空港はすでに閉鎖され、直そうとしているのか、放置しているのか見わけがつかない車が並んでいたり。
人がまったく住んでいないか、というとそんなこともなく、わずかながら普通に暮らしている人もいれば、ホテル(パブ)もある。
どういうわけか、ホテルには馬が飼われていたり。
地図を広げると、こういうゴースト・タウンはあちこちに点在している。
街を作るくらいだから、以前は、何かで賑わっていたのだろうが、時代の変化と共に人々が出て行って過疎化したのかも。
コッキニーからさらに40km~50kmほど走り、マルコム・ダム自然保護区(Malcolm Dam Nature Reserve)へ。
ダムといっても、見た目は完全な湖。
湖のほとりにはキャンプサイトがあり、マットは「ここでキャンプしたらいいんじゃないか」と提案。
しかし、息子のカイは「キャラバン・パーク(日本でいうところのオート・キャンプ場)がいい」という。
景色は良かったが、風が強いうえ、またもハエがブンブン。
正直、ハエの襲撃に耐えかねていたので、レオノーラという近くの街まで足を伸ばしてみた。
キャラバン・パークはすぐに見つかった。
Leonora Caravan Park
見た目もキレイで、悪くなさそうだ。
が、値段は1人当たり20ドル。
電気も水も使い放題だ。
カイはキャラバン・パークに泊まりたがっていたが、結局「20ドルは高い」という理由で、さっきのダムへ戻ることにした。
結果論だけど、もしかしたらキャラバン・パークの方が良かったかも。
夜になってハエがいなくなったと思ったら、今度は蚊が襲ってきた。
蚊取り線香を使ってみたが、今度は風が強くて効果が半減。
お湯を沸かし、ポンプでシャワーを浴びてみたけど、あまり疲れは取れなかった。
夕飯はパスタと食パン。
あまりにもバタバタしていて写真も撮れてませんでした(涙)。
そういえば、だんだん日差しが強くなり、夕方前には長袖もキツくなってきた。
道路に寝て写真を撮ってみた人は、こんなことに…
寝そべった瞬間、ものすごい熱さに飛び上がる(笑)。
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