R.I.P Luce Douady

Luce Douady スポーツ・クライミング

多分99%の方々はバイクと関係ない投稿だとスルーしてしまうだろうけど、できれば読んで欲しい。

Luce Douady (ルース・ドゥアディ)は2003年生まれの16歳。
彼女の人生は、6月15日(現地時間)で時を刻むのを止めた

スポーツクライミングのフランス代表選手で、2007年の世界ユース選手権(オーストリア・インスブルック)で国際大会デビュー後、シニア選手に混じってワールドカップにも出場。

東京五輪代表選考大会でもあった世界選手権(日本・八王子)にも出場して、直後、2019年の世界ユース選手権(イタリア・アルコ)ではボルダリングで堂々の1位。当時、You tubeで試合をライブ配信していたので、優勝候補の日本人選手たちを退けての1位は、強く印象に残っている。

スピードには出場していなかったが、リードの成績も良かったので、エントリーしていれば、コンバインドでも優勝していたのではないだろうか。

ルース・ドゥアディ - 公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会

2019年のイタリア・アルコでは、我が家の長男も参戦しており、2020年の正月には、パリで一緒に練習したり、食事をしたり、国内のみならず世界各国のクライマーたちが集まるフォンテーヌブローで登るなど、短いながらも一緒の時を過ごしたようだ。

事故が起きた場所は、Via Ferrataと呼ばれるフランスでも有名なエリア。
ガチのクライマーだけではなく、ちょっとしたスリルを味わいたい観光客にも人気スポットなのだそうだ(興味ある方は Via Ferrata Franceで画像検索してみて下さい)。

難易度が高いとはいえ、ロープやクライミングシューズなど必要なギアを背負って歩けるようなところだから、難易度の高い外岩での経験値も高い彼女にしてみれば問題はなかったはずだ。

何故、そんな事故が起きたのか、これ以上は想像でしか言えないが、彼女は150メートル前後の断崖から滑落して亡くなったのは事実だ。

我々も、オートバイという危険極まりない乗り物に乗っている。
数え切れないほど転倒して、あちこちをケガしたが、自分自身は「まだ」死に至るようなケガをしていない。

そう、いままで致命傷を負ってきていないだけで、それは未来永劫続くわけではなく、キーを回し、マシンに火を入れた瞬間からルーレットは回り出すのだ。

日々の整備や点検、バイクだけではなく自分自身のフィジカルやメンタルのコンディションを整えることで、事故の原因や可能性を遠ざけることは出来る。

しかし、信号待ちで停車していて、後ろから追突されるような、自分では防ぐことが難しい事故やトラブルもある。
滅多に当たらないが、ルーレットを回してしまった以上、そういうリスクは常につきまとうのだ。
丈夫なヘルメットをかぶり、プロテクターつきのジャケットを羽織り、周囲の危険に気を配る…

ところが、少しずつ運転に慣れてきて、たとえ転んでも自分は巧く転がってかすり傷でやり過ごし、やがてはレザー越しに伝わるアスファルトの硬さも、砂埃の味も忘れ、事故や転倒は自分とは無縁のもの、と錯覚する。

そう、それは単なる錯覚なのだ。
配られたカードがブタだっただけ、コインを置いたところにルーレットが停まらなかっただけだ。

今回、そんな当たり前のことを16歳の少女に教わった。
ただの16歳じゃない。
世界最高峰の試合で戦うだけの実力をもち、世界中にいるクライマーの何人が挑戦できるか分からないような難易度の高い現地の壁を完登しようとしていた「超人」の部類だ。

我々ライダーがかつて、阿部典史のアクシデントから学んだように、今度はルースから学ぶことになるとは、本当につらい。

そして、パンデミックがなかったら、おそらくワールドカップにフォーカスしていただろうから、この時期に外岩でチャレンジすることはなかったのではないだろうか。

何でもかんでもコロナのせいにするな、と言われそうだが、16歳という若い命を奪った事故に、そう呪わずにはいられない。

彼女をよく知る人からは
「強いのに気取ったところもなく、常に前向きで、歌もうまく、選手やその家族からも好かれていた」
という言葉が寄せられた。

本当に愛されていた選手だったのだ。

R.I.P Luce Douady