早起きでもなく、さりとて寝坊したわけでもなく。
そこまで遠出しなくてもいいや、という気分の日曜日。
何となく北へ向けて走り始める。
せっかくなので峠の一本でも走ろうかと思ったけど、ガソリンが減っていた。
最近の傾向として、そこそこ回転数を上げてもリッター18kmくらいは走る。
20リットル入れたら350kmは走れる計算だ。
どこかで給油しようと思ったが、地方のスタンドは日曜日休みのところが多い。
あっちにもない、こっちにもない、と繰り返しているうち、無駄に走ってしまう。
結局、だいぶ前に通り過ぎたスタンドまで戻って給油。
予定は未定だから、別によいのだけど。
峠道を走ってみたけど、何だかしっくりこない。
集中力を欠いているのか、ライン取りもシフトチェンジもメチャクチャ。
何度かリアが滑ってみたりして、ライディングそのものが全く楽しめない。
そういう時は何をしてもダメなので、いったんリセット。
道の駅でプラグの火を落とす。
少し休憩してから、さっきの峠には戻らず、田畑に囲まれた田舎道を走る。
峠のようなスリルはないけど、のんびり走る風情はある。
昼飯のタイミングは逃したけど、帰宅してから食べればいいか。
たしかカップ焼きそばがあったはず。
なんてことを考えて走っていたら、突然スロットルのテンションが失われた。
文字に起こすと「ふにゃん」という感じ。
何度か経験のあるこの感触は、間違いなくワイヤー切れ…!
そして引きのタイミングで切れたということは、ちょっとやばいぞ。
マシンを路肩に停めて点検してみると、案の定、アクセル開のワイヤーが緩んでいる。
何度か戻りが切れたことはあったけど、引きで切れたのは初めてだった。
スロットルワイヤーが切れた場合。
モノの本によく書いているのが、戻りと引きのワイヤーを入れ替えて急場をしのぐ、という方法。
理論上は簡単そうだけど、言うは易く行うは難し、の典型例。
本当にそんなことが出来るのかどうか、自分のバイクで試しておくといい。
自分のバイクだと、ワイヤーのガイドの構造上、多分無理。
キャブ側で入れ替えてスロットルを戻す動作=キャブのリンケージが開く動作、になるのかと思うけど、ちょっと現実的じゃないかも。
この辺りは車種というかスロットルの構造にもよると思うから、自分のバイクがどうなっているのか、本当に出来るのかどうか見ておいた方がいい。
なんて偉そうなこと言っておいて、一式手ぶらで出かけてたから、何も言えないんだけど(笑)。
それではどうするか。
普通ならお手上げ。
ベルゲ・パンツァーならぬ積載車を呼んで、レスキューしてもらうしかない。
が、こいつは旧いキャブ車なのでアイドリングスクリューがついている。
コイツを目いっぱい、3000RPMくらいになるところまで引き上げる。
そしたら、ギアをつないでやる。
すると、どうにかこうにか走り出す。
が、3000RPMに固定したエンジンで、いつも通りクラッチをつなぐと、ガツン!とミッションに高負荷がかかる。
なので、信号待ちではいったんエンジンを切って、1速に入れ、クラッチを握ってエンジンをかける。
そしたら、クラッチをゆっくりとつなぎ、スタートを切る。
スタート地点が坂道になっているとエンストする可能性もあるので、そこは足で漕いでやるなどして頑張る。
走り出したらギアを上げていって、勾配にもよるが40km/hくらいまでは出る。
ハザードがあるなら点灯して、なければ、左にウインカーをつけっぱなしにして、後続車両を追い越させる。
ここまでやって、運転に自信がないとか、どう頑張っても急な坂道を避けられない場合は、近くのバイク屋に突っ込むしかない。
峠道や坂があったのだが、どうにかそれらを回避、なるべく平坦な道を選んで帰ることができた。
一番の難関は、自宅前の急な坂だったのだが、Zは排気量にものを言わせて、どうにか帰還。
もちろん、これは一般道での話。
高速道路や自動車専用道路で低速走行したら危険極まりないので、その時はあきらめるしかない。
それからインジェクションのバイクは、アイドリングスクリューがないためこの方法は使えない。
早速バラして各部を確認。
意外だったのが、切れたのがキャブ側ではなくスロットル側だったこと。
クラッチケーブルの場合、風雨にさらされるレバー側が切れることが多いが、スロットル側はケースに収まっているし、そう簡単に潤滑剤も切れない。
現に開けた時もグリスは問題なさそうだった。
とにかく、切れてしまったものは直すしかない。
新しいスロットルワイヤーを買い替えるのが順当だが、いまのワイヤーはKX用のワイヤーをカットしたもの。
アウターもカットしているので、ワイヤーアジャスターも必要となり、そうするとだ…
おそらく6000円くらいの出費になる。
本来なら、カットしなくて済むジャストサイズのワイヤーを探すべきなのだろうけど、イチからパーツ探しをしては時間もかかるので、今回はワイヤーだけの交換にとどめておくことに。
そもそもアウター自体には何のダメージもないしね。
切れたワイヤーを引き出して、2つタイコの距離を測る。
これで必要なワイヤーの長さを割り出す。
次に太さ。
ノギスで直径を測ったら、いざホームセンターへ!
この時、手ぶらではなく、外したワイヤーを持っていく方が吉。
実際、1mmと思いながらも手ごたえは1.2mmの方だよな、と思ったんで。
結果的に正解は1.2mmだった。
タイコは、ACTIVEのイモネジで締め込むタイプ。
ちょっとお高いんだけど、テンションかけられるので信頼性は高い…ハズ。
それでも、かつて2回ほど抜けた経験があるので、今回はコレを用意。
ステンレス用のフラックス。
フラックスというのは、金属表面の酸化物または汚れなどを除去して、はんだと金属がつきやすくするもの。
ワイヤーにタイコを通したら、少しほぐしてフラックスとはんだがしみこみやすいようにしてやる
正直、ここまでやったらイモネジは要らないような気もするんだけど、念のため。
ワイヤーを通して長さを確認。
メートル単位で買うので「短い」てことはないと思うけど、たとえばこれがアメリカンで電装も含めて何もかもが長いようなマシンだったら、ワイヤーも余裕をもって買わないとイカンね。
本来ならワイヤーを外して作業すべきなのだが、Z1Rの場合ワイヤーを外すためには、カウルどころかメーターパネルも外してやる必要がある。
これが本当に面倒くさいことは知っているので、すんません、あえてそのままやります。
熱したはんだごてを当ててやるとフラックスがジュージュー言い出す。
すかさずはんだを流し、完全に密閉してやる。
あとは余分なワイヤーをカットしてやるんだけど、だいたいカットした時にタイコの穴から末端が飛び出てしまう。
タイコがおさまる穴はクリアランスがギリギリなので、これがちょっとでも飛び出ていると入らない。
無理やり突っ込むと、タイコが中でフリーにならず、結局断線の原因になる。
指で触ってもチクリとしないところまでヤスリで磨いてやることが重要。
それに、強酸性のフラックスが部材に残っていると腐食の原因になるので、これもまた丁寧に落としてやる。
ブラス(真鍮)のタイコが傷で曇るかもしれないけど、見た目よりも実用性が重要なので念入りに。
それに組み付けてしまえば、ここは見えないでしょ。
タイコを収めてみて、滑らかに動かないようだったら、もう一度点検を。
作業中の写真がないのは、両手がふさがっているから(笑)。
両手どころか「はんだごて持つ」「はんだを流し込む」「部材を押さえる」「写真を撮る」ので4本くらい欲しいところ。