2024年06月08日09日Z1Rで国道を端から端まで走るツーリング:国道399号線(福島県)

ぶらりバイクの旅

国道399号線

またの名を

酷道399号線

そう呼ばれているのを知ったきっかけが、酷道大百科(著者:鹿取 茂雄  実業之日本社)。
素人感覚では、国道は国家予算で造られた道路で、しっかり整備されているというイメージ。
実際、国道の多くが街を貫く大動脈だったりする。
ところが、県道よりも細くてさびれたような国道らしからぬ道もある。
なかには車もすれ違えないような、路肩が剥き出し、未舗装道もある。

この本では、そういう道を総じて「酷道」と呼んでいる。
仕事や物流で使うには不便かもしれないが、興味本位で走る分には魅力あふれる道路だ。

この書籍にラインナップされている東北地方の酷道は数か所。
自宅からいちばん近そうだったのが、国道399号線だった。 

国道399号線は福島県いわき市を起点として、山形県南陽市を終点とする約170kmの道。
大半は福島県のあぶくま山地を縦断するようなルート。
いわき市を北西に進み、川内村、田村市、葛尾村、浪江町、飯舘村、伊達市、福島市まで。
一瞬だけ宮城県の七ヶ宿町に入り、福島市を走ったら、山形県の高畠町から南陽市に入って終点を迎える。

ゴールまで170kmくらいだと、日帰りツーリングでも少し短いくらいに思える。
が、峠道なのでそれほどスピードは出せない。
ようするに、考えているよりも時間がかかる、ということ。

そして、さらに難易度を上げているのが、起点(もしくは終点)までのアプローチ。
自宅近くにあればいいけど、残念ながら今回はどちらも遠い。 

自宅からいわきまでの道のり

恒例の出発前写真。
まずは起点のいわき市まで行かなければならない。
自宅からの距離は、何と160km…!

399号線を制覇するのとほぼ変わらない距離(笑)。
嫌がってもどうしようもないので、海沿いの道を走りながらいわきへ向かう。
個人的には、名取の閖上から浪江町を結ぶ道はオススメ。
ナビだと国道6号か高速道路を走るよう誘導するが、地元民が「浜街道」と呼ぶ「県道38号 相馬亘理線」は信号も少ないし、見どころもある。
特に相馬市の松川浦に差し掛かったところにある「浜の駅 松川浦」は、地元で収穫された野菜や近くで水揚げされた魚介類などリーズナブルなアイテムがいっぱい。

本当に粒の大きく旨味のある活アサリや、名物の北寄貝が(実際、食べました)。

立派な野菜が安く売っているし、外では浜焼き的なアイテムも。
休日になると、この辺りを走るライダーもいるので相馬あたりを走るプランも良いかも。

松川浦大橋を渡って南下すると、松川浦ならではの景色が(※写真は数週間前に撮影したもの)。
この真っ直ぐの道路が気持ちいい。
一気に走り抜けてもいいけど、展望台から景色を眺めるのも一興。

南相馬に入ったら、ぜひおすすめしたいのが、菓詩工房わたなべのソフトクリーム。
ケーキも美味いのだが、この時期限定のソフトクリームはオススメ。

南相馬市を通り抜けて、浪江町で昼ご飯。
この辺りで観光客が立ち寄るのは道の駅が定番なのだが、今回はちょっと前にオープンしたハンバーガー店、Aspirationへ立ち寄る。

このボリュームは、なかなか。
ハンバーグは福島牛を使っているらしい。
トマトやレタスなどはトッピングになっていて、自分が好きなものを入れられる。
ちなみにポテトはフライドポテトではなくて、ハッシュドポテト。

浪江町から双葉町に入ると、もはや福島第一原発が目と鼻の先。
原発が全て見えるわけではないが「ここだな」という場所は分かる。
ここ最近は通行制限もだいぶ緩やかになり、その日もいわき方面から自転車に乗った外国人旅行者が、国道6号線を走っていた。 

このまま国道6号を南下してもいわきまで到着するが、幹線道路を走ったらつまらない。
6号線と並走する県道35号線を使って南下。
浪江町、双葉町、大熊町の山間部を走っていると、小さな路地すらバリケードで封鎖されている。
まだまだ爪痕は深く残っている。

これは4月に浪江町を走った時の写真。
こんな感じで、この辺りの郊外は通行制限されている箇所もある。

酷道399号線 起点 いわき市

いわきに到着したのは14時を回った頃。
ツーリングのスタートとしては、かなり遅い時間帯だが仕方ない。
この辺りが起点らしいけど、どうなんでしょう?
とりあえず、399号線の看板が出てきたので記念撮影。

国道399号を走っているはずだが、国道6号線も重複しているので実感はない。
いわき駅の北口へ回り込むように走り、北上するようにして住宅街を走る。
ほどなくして田畑が広がる風景になり、30分もしないうちに森の中を走る道になる。

前方を走る配偶者。
土日は運転に不慣れなサンデードライバーで詰まり気味になることも多いが、実に快適。
ちなみにいわき市と川内村の境目あたりに造られた十文字トンネル。
2022年に開通したばかりの真新しいトンネルだが、それまではつづら折りに走る細い道を通っていた。
上記の「酷道大百科」が刊行された時点では、まだそちらが399号線だったはず。
厳密にいえば399号線を外れるが、野趣あふれる道を選びたいなら、そちらがオススメ。

川内村 田村市

川内村に入ったところにあるYO-TASHIで休憩。
何台かのライダーが休憩したり、通り過ぎたが、休日にしては少なかった気がする。
田村市に入ってからも、田畑が広がるのどかな風景が続く。
こういう牧歌的な風景、いいよね。

葛尾村・浪江町・飯館村

葛尾村から浪江町の西部、そして飯館村を走ると様相が一変する。
少し前までバリケードが設置され通行不可能だった道だ。
さらにもっと以前は、地域一帯が封鎖されていて、常磐道から見下ろす景色は痛ましい限りだった。

2023年5月1日、ほかの市区町村と共に避難指示が解除され、今回は自由に走れるようになっていた。
とはいえ、それは制度上の話。
帰宅困難区域に指定された地域を走ると分かるが、本当に人の気配がない。

携帯電話のシグナルも消えて、行き交う車もほとんどいない場所でマシントラブルになったら…と思うと背筋が凍る。

飯館村の峠道を下っていると、前方に何かが落ちている。

まるまると太ったタヌキ?イタチ?テン?
こういう生き物はたいていバイクや車を怖がって、飛び跳ねるようにして逃げてしまうものだが、こいつはノソノソと草むらへ移動しただけだった。
それだけ人に対する警戒心がないのだろう。

こういう景色を見て心に留めておくのも、現代人の義務のような気がする。
まだ何も終わってないんだぞ、と。

この道に限らず、人里離れた寂しい峠道を走っている時、道の駅が近くにあると分かるとホッとする。

伊達市・福島市(飯坂温泉)

伊達市に入る頃には、もうだいぶ陽が傾いてきた。
だんだんと景色も賑やかしくなって来て、伊達市の街中を通り抜けると、もうそこは福島市。
飯坂温泉に入った頃には18時近くになっていた。
ツーリングはテント泊が定石なのだが、同行した配偶者が断固拒否。
したため、飯坂温泉泊となった。

今回、宿泊したのが伊勢屋
飯坂温泉の中心地からは少し奥まったところにあるが、バイク乗りにとっては嬉しい屋根付き駐輪場を用意してくれている。
スタッフの方々がMoty’sのTシャツでそろえているくらいだから、経営者もオトキチなんだろう。
建物のつくりは多少古いが、昭和の全盛期には沢山の観光客が訪れたのが容易に想像できる。

飯坂温泉の玄関口、飯坂温泉駅までも10分少々で行けるので、決して不便ではないはず。
むしろ、ホテルが便利過ぎると腰が重くなって「もう近場でいいや」と冒険心を削がれてしまうので、かえってよかったかも。

飯坂温泉は江戸時代どころか、あの日本武尊(ヤマトタケル)が傷をいやしたという伝説もある。
1970年代、年間177万人が訪れた時期もあったらしい。
かつてはゴージャスなホテルだったであろう廃墟、ホテルで働く人たちが住んでいたと思われるアパートも沢山残っていて、当時の様子がうかがい知れる。

飯坂温泉の中心部は一方通行道路が多く、特に注意したいのがホテルジュラク前の県道319号線。
飯坂温泉駅からの一方通行らしく、反対側から来た車をパトカーが注意していた。
が、交差点側から振り返っても標識が見えない。
これで取り締まられたらたまったものじゃない。

荷物を部屋に放り込んだら、温泉街をブラブラしてみる。
歴史ある温泉街らしく、建物も時の流れを感じさせるものが多い。

飯坂温泉には、学術的文化的価値のある歴史的建造物だけではなく、こんな昭和を感じさせるような雰囲気もある。

街を散策していたら、そろそろ腹が減ってきた。
フラリと降りた駅ではないけど、旅先の一食はギャンブル。
メシ次第で旅は台無し。
果たして何を頼むのか…

今回、選んだのは、餃子の照井
円盤餃子という円を描くように並べたスタイルの餃子の元祖らしい。
人気店らしく、かなりの大行列。
名前を書いてから入店するまで30分以上かかった気がする。
餃子を頼むのは当然として、どういうわけか馬を推している。
馬刺しは珍しくないが、馬アワビと呼ばれる心臓肺動脈、いまでは全面禁止となった牛のレバーだが、ここでは馬のレバーが食べられる。
生レバーなんて何年も食べていない。

というわけで頼んでみました馬レバー。
牛のレバーだと言われたら、気づかないままかもしれないけど、牛ほど主張がない感じ。
実はあまり体調がよくなかったので、レバーで復活を試みる。

そして、これが円盤餃子。
一皿で22個。
普通、ラーメン屋のような街中華で餃子食べても1皿か2皿だから、食べても10個程度。
それが20個以上だから、相当多いはずなのだが、ペロリと平らげてしまった。

おまけにラーメンまで追加(笑)。
ラーメンもオーソドックスなテイストで、美味しかった。
餃子は半皿もあるので、ラーメンと餃子はセットがオススメ。

満腹になったところで、腹ごなしに街歩きを再開。
店を出た頃には、すでに陽は暮れていた。

さっき見たばかりの風景も、陽が暮れてから歩くとまた違う姿を見せる。

おとなり福島県の温泉地だから、随分昔から耳にしたことはあったんだけど、近過ぎたせいで足を向ける機会はなかった。
今回はツーリングの途中に立ち寄っただけだが、次回はじっくり歩いてみたい。

翌朝は朝7時からオープンしてるお店「そばひろ」を発見。
ひろすけ旅館が経営するお店で、宿泊客向けだけではなく誰でも食べられる。

500円そこそこで、この内容ですよ。

朝飯を済ませ、宿を出発してツーリングを再開…
の前に、昨日、時間切れで寄れなかった福島市の駒田屋本舗へ。
カメラをセットし忘れて残念だったのだが、福島駅方面へ向かう際、飯坂温泉と福島駅を結ぶローカル線の電車と並走する場面があった。
この電車も駅も非常に雰囲気が良いので、以前撮った写真を載せておきましょう(写真は福島駅)。

こちらが駒田屋本舗。
福島駅から車なら数分で行けるところ。

ここの名物、みそぱんを購入。
最近はチーズ入りのみそぱんもあって、焼きたてを食べることが出来た。

鳩峰峠  

無事にお土産も買って、酷道ツーリングを再開。
飯坂温泉を流れる摺上川(すりかみがわ)に沿って走る道は、道幅もそこそこ広い快走路。
ていくと、摺上川ダムとダム湖(茂庭っ湖)が現れる。

茂庭広瀬公園には何と無料で利用できるキャンプ場が。
キャンプ場のそばには温泉施設「もにわの湯」があるので、至れり尽くせりと言っていいだろう。

ただし、近くに食料品店はないので、食材はあらかじめ用意するか、飯坂温泉近くのスーパーマーケットで購入した方が良いだろう(※山形県側から走る場合は、高畠町内で買っておくべし)。
ここを過ぎたら、ひたすらワインディング。

コーナーのRはキツいところもあるが、道幅がそれほど狭いわけではないので快適に走れるはず。
そのかわり、峠道に不慣れな対向車がオーバーランしてくることはあるし、バイクも結構な確率で膨らんできた印象がある。
巧いフリして安全マージンを軽視すると後悔するハメになる。 

福島県と山形県の県境にある鳩峰峠。
ここからは人間が酷道にチャレンジ。

龍ヶ岳 登山

普段から登山やっている配偶者に誘われて…というか、ツーリングのルート上に登れそうな山があったのでスケジュールに組み込まれてしまった登山。
何度か同行しているが、疲労困憊するのは当たり前、場合によっては膝に大きなダメージを受ける。

25年くらい前に上野の古着屋みたいなところで買って、革もひび割れてきたブーツだが、ビブラムソールに張り替えて見事に復活。
果たしてこれで登れるだろうか?

バイクが停まっているのが見えるだろうか?
10分くらい登山道を上がっただけでも、この景色。
我々の登山はここからがスタート。

こういう平坦なところを登るなら、登山も楽。
登山というよりもトレッキングか。

振り返るたび、景色はどんどん美しくなるが、どんどん心臓の鼓動が速くなってくる。

手足を使って登るほどの急勾配ではないのだが、枝が登山道を覆っている箇所もあり、中腰になって登り続けなければならないセクションがあって、それがつらい。
頂上までは40分くらいなので、難易度は「やさしめ」らしい。

どうにかこうにか、無事に頂上へ到達。
どの山もそうだけど、頂上へ辿り着いて絶景を眺めると、それまでの疲れが吹っ飛ぶ。
けど、今度は山を下りないといけない。
登りは息が上がるだけだけど、下りる時は膝がやられる。
ここでケガでもしたら帰還できなくなるので、慎重に下山する。

10時40分にスタートして12時くらいに駐車場へ戻ったので、1時間20分くらい。
今朝、みそぱんと一緒に買って来た豆大福で疲れを癒す。

高畠町(犬の宮 猫の宮) 

鳩峰峠を過ぎて高畠町の麓まで降りれば、399号線の旅もほぼ終わりといってよい。
最終地点に向かう前に、わき道にそれて珍しい場所へ。
「犬の宮」と「猫の宮」という神社だ。

その名の通り、犬と猫を祀った神社である。
詳しいことは写真の「由来記」を読んでもらうとして、妖怪タヌキには騙されるし、蛇を警戒してくれていたネコを誤って殺してしまうし…
実は自分のルーツはこの集落にある。
もしかしたら、うちの先祖がやらかしたかもしれないので、伝説が事実なら
「先祖がマヌケですみませんでした」と謝っておく。

399号線 終点 南陽市

犬の宮 猫の宮から終点までは、ちょっと道が分かりづらくなる。
街の中心部へ入ると、ほかの国道が重複してしまうからだ。
漫然と走っていると399号線を外れてしまう可能性もある。
「酷道」という趣旨としては、街へ降りた時点で過酷さは失われているが、起点から始めたのだから終点まで行かないとね。
最後の最後、終点として設定されている地点に到着。
あちこちの寄り道を含めず、給油と小休止程度なら6時間くらいで制覇できる計算。

酷道と呼ばれる道も、舗装されたり道路が拡張されたりで、だんだんと普通の道と変わらない姿になっていくのだろう。
399号線も立派なトンネルが出来て、走りやすくなったはずだ。
だが、あちこちに東日本大震災の爪痕を数多く残している。
だからといって、過剰に深刻になる必要はないとは思う。
福島の浜通りもそうだけど、自分で実際に訪れてみることが大事だと思う。
見聞きするだけでなく、何かを食べてもいい。
それで「大変だなあ」と感じるならそれが正直な感想なんだろうし、もしかしたら「思いのほか素敵なところだ」と驚くかもしれない。
自分が書いていることも含めて、他人が書いたもの、メディアで報道された内容が真実と決めつけず、可能な限り自分でその場へ行ってもらいたい。
自分も、今回の旅をきっかけに、福島県内ではたくさん再発見できたので別ルートも走ってみようと思う。

おまけ

昼過ぎくらいに終了したので、帰り道は山形名物の肉そば。
南陽市の「そば処 みづき庵」で。
疲れた身体に染み入る味だった。

かなりヘトヘトだったんだけど、ここから二時間半くらいかけて帰宅。
何度もいうけど、最後の最後、出発地点まで無事に戻ってプラグの火を落とすまでが旅。

今回も空冷Z、長距離デビューした水冷Zも頑張ってくれた。
Z1Rは、シフトの入りが悪くなってきたんで、そろそろオイル交換じゃなかろうか。