Kawasaki Z1R オーストラリア一周単独ツーリングレポート South Australia編

オーストラリアバイク一周

こないだまでの雨がウソのように晴れ渡る。
ナラボーを抜けても天気がよければいいのだが…何も無いと言われるナラボー平原だが、この写真で分かるようにホエールウォッチングの名所でもある。

■1997年9月10日 Port Augusta 緑に包まれて…

セドゥナの街を出て、ひたすら1号線を走る。
この街から1号線はふたつに分かれる。海岸線沿いと、内陸部直線型に、である。
外周一周のコンセプトを忠実に守るのであれば、Port Lincoln を経由して海沿いを走るべきなのだが、迷わず内陸部を選んだ。
こないだのアルバニーとかエスペランスで雨の中を走ったのが、トラウマになっている。
東海岸を出発した時に出くわした雨とは、ぜんぜん違う。
日本の晩秋に、雨の中走っているような感覚だ。
 
もちろん、今、これを書き綴っている段階では
「バカだなあ。ちょっとガマンして海沿いを走ればいいのに」
とか
「天気なんかそのうち回復するんだから、適当にブラブラしていりゃいいのに」
と、後悔しているのが正直なところ。
 
だが、当時のオレにしてみれば、とんでもない寒さが続き、肩や背中がカチンコチンにこわばりながら毎日走っているのだ。
ここで投げ出すわけにもいかないから、ただ走っているだけに過ぎなかった。
それに、車検も近づきつつあり、何だかソワソワしながら走っていたのだ。

今日はポート・オーガスタまで走る。
距離にして460㎞。
このくらいだと、無理なく走れる。適当に走りながら、キャラバンパークを発見。
今日もまたテントでお休みすることに。

ここのキャンプ場、程よく街に近いうえ、キレイな芝生が敷き詰められていて、その上にテントを張れるので、寝心地もバツグン。
質の良い芝生のキャンプ場、ホント最高。
オーストラリアのキャラバンパークは、こういうところが嬉しいよね。
草のニオイに心も落ち着くし。


NTからWAに入った時もそうだったけど、赤茶けた景色ばかり見ているとダメね。
心がささくれ立って。
山とか海に囲まれて育ったからそう思うのかもしれないが。

ここポート・オーガスタは、ちょうどダーウィンとアデレードを結ぶ大陸縦断道路『Stuart Highway(スチュワート・ハイウェイ)』の上にある。
ここを北上するとアリス・スプリングスにたどり着くわけだ。

オレはというと、南下してアデレードに行くわけだが、ここでちょっと悩む。
というのも、ここから540㎞ほど北上したところにクーパー・ピディという街がある。
そこは有数のオパールの産出地で、砂漠のど真ん中ってんで住民はみんな地下に住んでいるというとんでもない(?)ところなのだ。

行くしかない、行きたいとは思ったが、実はこのころすでにオイルは限界。
質的には、まだイケたかも知れないけど、やっぱし回しすぎて量が減っている。

補充分のオイルもすでにない。
もしクーパー・ピディに行けば、往復で1000㎞を越えてしまう。
全ては、この街にバイク屋がないのが原因だ……とか言い訳してるけど、どこにだってバイク屋はあるし、最悪、ガソリンスタンドでもよかったはず。

車のオイルでもぶち込んでやろうかと思ったが、キャンプ場のオッサンに「別に大して面白くないと思うよ」と言われてしまう。
まあ、長い人生、もう一回来た時の楽しみとして取っておこうってことになった。

今思えば、無理にでも行くべきだった。
この頃、おそらく旅に対してのモチベーションが下降気味だったことは否めない。
今だったら、K-martとかホームセンターに行ってカストロールの缶を何本か買ってきて、自分でオイルを交換してもよかったはず(パースではそうしてたし)。

キャンプ場のオッサンが「無理してでも行け」と言ったら、ハンドルを再びスチュワート・ハイウェイに向けたかどうかは、甚だ疑問である。
当時の記録をひっくり返しても、明らかにトーン・ダウンしている。
たびたび書いている天候不良のこともあるが、ゴールそのものを目指して前のめりになっており、旅を楽しもうとする好奇心や探究心が衰えてしまったのだと思う。

自己弁護させてもらうと、これもまた旅なのよ。
最初の頃に感動したことも、何度も体験していけばコモディティ(commodity)化するでしょう。そういう時こそ、少し力を抜き、やらなければならないことを追うのではなく、やりたい方へ進むべき。

なーんて、20代のうちに悟ったりしたら気持ち悪いね(笑)。
そんな簡単なことも見えないのが若さの特権なんですけどね。

【移動距離】
Ceduna – Port Augusta 469km

■1997年9月11日 ~ 9月14日 Adelaide 都会の喧騒とZ1300

計画通り、アデレードへ下る。
この辺りまで来ると、もうどこを走っていても人が住んでいるニオイがする。
車の数も、道路沿いの家の数も明らかに多くなっている。

んでもって、アデレードに到着。天気もいい感じだし、最高だ。
ここでの宿は、パースのローンスターズそっくりのラックサッカーズBP。
ユースホステルの斜め向かいという位置にありながら、日本人がいっぱい。
日本語の看板も出ている。

マーガレットというオバさんがほとんど一人で切り盛りしていて、すんごくアットホーム。
とにかく、他の国の客が怒り出すんじゃないかってなくらい、日本人は優遇される。

もちろん、日本人のライダーも歓迎される。
やっぱりここでもみんなでメシを作っていて、米や野菜はマーガレットが用意してくれるのだ。
ありがたい話だ。

日本人びいきの宿だからといって、調子に乗ってバカ騒ぎしないように。
周囲は一般住宅街、ハメを外しすぎた客のせいで迷惑するのは、世話になってるマーガレットおばさんだ。
マーガレットが日本人びいきだからといって、周りの住民がそうとは限らない。
たまたま、当時宿泊している客の中で英語が喋れる方だったせいか、マーガレットおばさんは、あれやこれやと話しかけてくれた。
「マーガレット、オーストラリア人の英語は独特だけど、聞き取りやすいね。これはイギリス英語のせい?」
「そうね。昔、私たちが幼い頃は、鏡の前に立たされて、しっかり発音練習させられたものよ。それが当時の教育であり、躾だったの」
思えば、アルバニーで出会った女性も、LとRの発音にはうるさかったもんな。

ここんところ疲れていたのか、10時まで眠る。
たまっていた洗濯物を洗ったり、バイク屋に行ってオイルを交換したり、帰ってきてからスパークプラグを交換したりする。
バイクに詳しい客もいて、エキパイの排気漏れを見つけて直してくれた。
そこそこ時間をつぶすことが出来たとは思うが、都会の喧騒は正直好きになれない。
雰囲気や街並みはすごくいいところなんだけど…

でも、ここでは嬉しいことが。
「そのバイク…TAKEDAさんですよね?」と、ある旅人に声をかけられた。
誰かの友達かと思ったら、なんとオレの読者だった…!
少し離れた街の宿で、Mr.BIKEが置いてあったのだという。
自分がやってきたことが、ちゃんと形になるのって本当に幸せなことだと思う。
 
また、この街は、ナラボー平原への玄関口となっている。
これからナラボーへ挑む者が準備をしたり、オレのようにナラボーを渡り終えて羽を休める者もいる。
ここでも何名かのオートバイ乗りに出会ったのだが、正直「よく生きていたもんだ」という連中もいた。

今思えば、当時の自分自身、準備不足だったり、無茶をしていたところもあった。
自覚していた部分もあったし、それゆえに「守り」に入った走りをしていたこともある。
麻雀でいえば、なるべくアンパイを選んでいたし、悪い方に転がった時のことを考えて行動していたつもりだ。
ところが、彼らときたら危険を危険とも思っておらず、トラブルを起こして他人を巻き込み、世話になっても「これもまた旅の経験」と笑っていた。
 
旅に出る前、Zオーナーズクラブのビンキィが言っていた「立ち往生した日本人」のことも、だいぶ後になってから知ることが出来た。
そいつから直接聞いたわけじゃないから、本人を特定できるような物言いはしない。
具体的な地名や人名はカットする。
その日本人ライダーは、とある砂漠を横断しようとしたが、前にも書いたように十分な水を持っていなかった。

すぐ傍には池があったにらしいのだが、彼はその水を飲もうとしなかったのだという。
生命の危機に瀕しているにも関わらず、水を口にすることなかった彼の行為は「最善の努力を怠って助けばかり当てにしていた」とバッシングの対象となった。
池の水を飲むのはなかなか勇気がいるので、同情の余地もないわけではないが…

腹を立てたのは地元のオーストラリア人だけではなかった。
彼の捜索のために砂漠のルートが立ち入り禁止となり、日本人ライダーの中にはルートを余儀なくされた者たちがいて、その件に怒り心頭だったという。

たとえば、あと10日でビザが切れ、最後にこのルートを残していたとしたら…国内旅行ではないから「また今度」なんて簡単なものではない。
特にワーキング・ホリデーのビザは一生に1度しか取れないし、延長も出来ない(90年代当時)。

あれから20年近くたち、インターネットの普及や装備も進化して、以前よりは危険を回避できる確率は高まったとはいえ、オートバイの旅は危険がいっぱいだ。
日本人ライダーが、白い目で見られないよう各自気をつけて頂きたい。
 
翌日、ZオーナーズクラブSAの会長に連絡したら、バックパッカーまでわざわざお迎えに来てくれた。
会長の名前はトニー。
空冷ではないが、当時のZシリーズ最大の排気量をもつZ1300に乗るオジさんだ。

んで、一緒に走りにゆくも、天気は雨模様。
しかし、トニーもそうだけど、何だってオージーは旧車で飛ばすかな……
足回りなんてノーマルよ。
峠道を同じペースで走ろうものなら、いつズルッといくか分からない。
実際、何度かリアタイヤが流れて、心臓がバクバクいくこと数回。

Zで一周の旅に出たオレをオージーは「クレイジーだ」って言うけど、あんたらの方がよっぽどぶっ飛んでるぜ(笑)。
雨足が強くなってきたので、トニーの家でZミーティングのビデオを見せてもらう。
ビデオの中には懐かしいNSWの会長ビンキィの顔も。
手紙と写真を必ず送ると約束して、オレはトニー宅を後にした。

本当ならアデレードにいる間、ワインをつくっているバロッサ・バレーや、ドイツ人村ハーンドルフに行きたかったのだが、天気のおかげで全部お流れ。

天気がよくなるまで待てばいいって思うんだが、バイクの車検が迫っているのよね。
そういう都合もあって、アデレードはこれでおしまいだ。
結局SAは、ポート・オーガスタとここアデレードだけ。
ちょっと少なかったか?

ラックサッカーズの面々。
オレの隣にいるのがマーガレットおばさん。
何故かおばさんから発音の特訓を受ける。
何で皆してオレの発音を気にするんだろか…そんなに聞き苦しかったかな(苦笑)?

【移動距離】
Port Augusta – Adelade 310km

SA編 総移動距離 779km
Ceduna – Port Augusta 469km
Port Augusta – Adelade 310km

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Canada&USA WA Part 2 SA VIC  ACT  Appendix Appendix2015

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