TMキャブOH

2016年4月29日

4月も終わりになると、ようやく東北でも「バイクに乗ろう」という気になります。
筋金入りのバイク乗りは、季節を問わず、路肩に残雪が積もっていようが、路面が凍結していようが、バイクに跨り続けます。
というのは冗談にしても、ワタクシも若かりし頃は、正月のど真ん中、岬の峠道を走り、目の前に拡がる太平洋を眺めながら知り合いに新年のあいさつを入れたものです。
それがいまや、寒いだの暑いだの言っては、バイクに跨るのを避けている次第でございます。
 
そんな風に生きているせいか「さあ、春ですよ。お目覚めの時間ですよ」とエンジンに火を入れたんですけど
「なによ、今頃。他のバイク乗りたちはGWの予定目白押しだってのに、あんたはアイドリングするだけで、ちっともどこにも連れて行ってくれないじゃないの」
と、ヨヨヨと泣き出した。
「うるせえな、こちとら大人も大人、いいオッサンなんだ。オッサンてのは、この世で一番忙しい人種だ、そのくらい、長年の付き合いで分からねえってのか」
DV夫よろしく、シートをバチンとひっぱたいて「ああ、おもしろくねえ。酒でも飲んでくらあ」と火を落としたら、なんと滝のような涙を流し始めるではありませんか。

ええ、そうです。
オーバーフローというヤツです。

燃料コックをONにしている間、涙は一向に停まる気配がありません。
こんな時、たいていのコは「しょうがないなあ。季節も変わったし、どれひとっ走り行ってみるかい?ボクも忙しいから少しだけだよ」なんて言って走り出すと、あら不思議。
オーバーフローはウソのように収まるのです。
もちろん、心の中では「ケケケ。楽勝、楽勝」とほくそ笑むわけですが。

ところが、今度のオーバーフローは、まったくもって停まる気配なし。
これまで、みたこともない勢いです。

というわけで、今回のお題は「オーバーフロー」の修理です。
カブにもインジェクションが搭載される時代ですし、Zを乗り回すライダーの数だって、もはやベーゴマを糸で巻いて遊ぶ小学生くらい減少していると思うのですが、なかには、ネットサーフィンしまくって、ようやく辿り着いて読んでくれている方が、世の中には1人か2人位いるんじゃないかと…あるいは「おかしなこと書いてるヤツ、いないだろうな」とチェックしてるエンスーの方々もいるでしょうから、とりあえずオーバーフローについて、軽く触れておきましょう。

キャブは、液体燃料(ガソリン)を霧状にしてエンジンに吸入させる部品であり、仕組みは違いますが、霧吹きの立派なヤツがついてると思ってくれると分かりやすいです。
霧吹きが本体下部に液体を貯めているのと同様、燃料タンクから落ちてきたガソリンは、いったんキャブの一番下のフロート室に貯蔵されます。
そこから燃料が吸い上げられていくわけですが、当然エンジンが停止している間は、燃料供給も停ってもらわないと具合が悪いわけです。
もし、ガソリンが流れ続けていくと、当然エンジンの中にも異常な量のガソリンが入り続け、ついには燃焼室からクランクケースに落ち込み、オイルと混ざり合ってしまいます(オイルが本来の役割を果たせなくなります)。
なので、通常、スロットルが開かない限り、ガソリンがキャブ本体に流れないような設計になっており、仮に何らかの不具合で流入が停まらない場合、オーバーフロー対策としてフロート室にドレーンが設けてあるわけです。すると、今回のように、ガソリンがそこから漏れ出して、エンジンに行くのを防ぐわけです。

じゃあ、どうやってキャブはガソリンの流入をコントロールしているのかというと、これまた分かりやすく言うと「水洗便所のタンク」と、ほぼ同じ仕組みです。
水を流してやると水道管から水が流れ込みますが、タンクのフロートが水に浮いて、一定量までくると栓が閉まるという…まさしく、あれです。
ガソリンが停まらない原因も、水洗便所の不具合と似たり寄ったりで、フロートの動きが悪いとか、栓が閉まらないとか、だいたいそんなところです。

不具合を調べるには、キャブをエンジンに取り付けたままでは何も出来ません。
ホント、めんどくさくてガッカリするのですが、キャブをエンジンから外してしまいます。

キャブを外したら、ひっくり返して、キャブからガソリンを抜いてやります。
火気厳禁は当り前ですし、手にガソリンがつくとものすごく臭いますので、しっかりとしたゴム手袋で作業した方がよいでしょう。
まずはフロート室を外してしまいます。
ちなみに、我が家のZ、もはや誰が使っているのかも分かりませんが、MIKUNIのTMキャブが搭載されていますので「うちのキャブと違う!」と驚かれないように。
そして「TMってTMRのことだよね?うちのZはTMRだよ?」とかぬかすブルジョアな人たちは…とっとと出ていきやがって下さい(笑)。
ミクニにせよケーヒンにせよ、この辺りの基本構造は同じなので、オーバーフローで悩まれる方は、読んでいってもらえば参考になるかと…  

これが外したフロート室。
どういうわけか、内部に異物が混入。
それぞれの「部屋」の色が微妙に違っております。よくないですねえ。  

フロート室を外してひっくり返したところ。
スリットが切られた円筒状のパーツがメインジェット。
ガソリンの噴出量を決めるパーツで、大きくするほど燃料はたくさん噴き出してモリモリ走りそうな気もするけど、ガスが濃くなってカブる原因にも。
下駄代わりのコミューターなのか、サーキットで3000RMP以下にはしないなど、用途によって変わるだろうから、バイク屋さんと御相談を。
 
コの字にも似た薄い鉄板にくっついている黒い部品が「フロート」。
ガソリンがフロート室に溜まると浮いてゆき、バルブ(ニードルバルブ)を押し上げて燃料供給をストップさせるわけです。
普通に使用していてオーバーフローが出るのであれば、バルブと燃料供給経路の間に何らかの異物が混入して正常にバルブが閉じないか、あるいはニードルバルブ自体の摩耗とか不具合を疑います…多分。

なので、とりあえず、バラせるものをバラしてしまいます。
ところで、よくキャブレタークリーナーで「運転中にキャブの吸入口からクリーナーをスプレーして下さい」と書いてあるが、少なくともワタクシの友人・知人たちにとっては「NG」。
強力な液体が、パッキン類をダメにしてしまうのだそうです。
ドライバー1本で辿り着けるOリングくらいなら交換も出来るけど、キャブのスロットルバルブ辺りは、特殊工具でないと分解できないし、4気筒全部をバラすのは酷です。
なので、キャブレタークリーナーはドブ漬けしても影響がない(と思われる)金属類にのみ使用。
負圧バルブでスロットルバルブごと抜けない限り、キャブ本体を漬け込むのは辞めた方がいいでしょう。

あと、面倒くさがりのワタクシは適当なドライバーとプラハンで抜きますが、フロートをつりさげているピン(下の画像では黄色のウエスの上で横たわっている銀色の棒)を抜く時には、とがった棒を使用せず、先端がやや丸くなった、適性サイズの棒でコツコツと叩いて抜いた方が吉です。
適当な金属棒で叩くとマウントやピンを傷つけたり、手元が狂ってピンのマウントをへし折る可能性もある(つまりキャブが御臨終)わけで。
そのほか、キャブは、柔らかい金属類で構成されている「精密部品」なので、力任せに作業すると即死、キャブの新調(20万円弱)で懐も即死します。  

とりあえず、フロート、メインジェット、ニードルジェット、ニードルバルブなど、適当に外して、ゴム類が着いていないパーツはクリーナーにドブ漬け。
今回は慌てて近所のホームセンターでKUREのクリーナーキャブ(なぜキャブクリーナーじゃないのか謎)を買いに走りましたけど、個人的にはヤマルーブ(YAMAHA)のキャブレタークリーナーがオススメです。価格がちょっと高いんですけど、納得の効き目です。


クリーナーは揮発性が非常に高いので、100円ショップで購入した蓋つきの金属容器に密閉しておくと良いかも知れません。

洗浄した部品を再度組み立て、エンジンに戻して整備終了~

…となるはずが、それでも止まらない…なかなかの重症です。
 
さらに、あれこれいじっている間に、フロート室とキャブ本体の間に入るOリングが傷んでしまったのと、パッキン類もイマイチだったので、思い切って内部パーツを総取り換えすることに。
パーツリストもないので、何処にどんな部品を頼めばいいのか分かりませんでしたが、ネットサーフィンしていたら、何とTMキャブ用のリペアキットが発売されていることが判明。
根気強く調べれば、答えに辿り着く…さすがはネット時代です。
さらに、モノタロウや楽天市場、Webikeでも売っているという…このご時世でも、そんなに必要とされているのかと思うと、ちょっと驚きです。
 
リペアキットには、主なガスケット、Oリングを筆頭に、ニードルバルブASSY、パイロットスクリューなどが入って10,000円。
決して安い金額ではありませんが、ひとつずつ揃えていくよりも、安上がり。
しかも、キットにはパーツリストまで付属しているので、後々の部品発注にも使えるという…


MIKUNIからも出ているけど、何故かYOSHIMURAの方が通販では安かったので、こちらを選択。
どれが何の部品なのか、書いていないモノもありますけど(特にOリング)、現物とパーツリストを睨めっこして分別するのがよろしいかと。  

ニードルバルブとその周辺。
ニードルバルブが異物によって開閉しなくなるの云々と書きましたが、TMキャブにはストレーナー(金網)がついていて、バルブ自体の誤作動を防いでくれる造りです(全部のキャブがそうなっているわけではありませんが)。
あとは、長年の使用により、小さな棒状の突起物(サスのようにピョコピョコ動く。この反発力でバルブを密閉する)や円錐状の先端が摩耗して密閉しなくなる場合もあるため、この周辺を総取り換えすることが、オーバーフロー解決の近道でもあります。

パイロットスクリューも換えたらいいじゃない、と突っ込まれそうですけど、4気筒の調整はやりたくないので、放置することに(笑)。
で、ここでちょっと不具合が。
ニードルバルブの筒を本体に固定するためのワッシャがうまく押さえこんでくれません。
どうしてそうなってしまったのか謎ですが。
ひょっとして、バルブを押さえこめないから、ガソリンが漏れてるんでしょうか?
Оリングでガッチリ固定されているので大丈夫だと思うのですが、不安要素は排除しておくに越したことはありません。

似たようなネジを買いに行くのもおっくうなので、手持ちのワッシャでバルブを固定します。
明らかに違う大きさのワッシャですが、まあ大丈夫でしょう(笑)。
 

そして、オーバーフローのもうひとつの原因。
油面です。
フロート自体は目いっぱい浮き上がっているのに、ニードルバルブ自体を持ちあげてくれないと、ダダ漏れが続くわけです。
これを業界では「油面調整」と言います。
どういう原因で狂うのか分かりませんけど、あらためて目視してみたら、ずいぶんと狂っているところがありました(最初に確認しろよ、というツッコミはナシで…)。

油面の調整方法は、フロートを懸架する鉄板の、ニードルバルブの先端が当るところにスリットが入ってて、そこを曲げることによって調整出来るようになっています。
ドライバーの先端で起こしたり、ひっこめたり、その辺は難しい作業じゃないと思います。
あとは、ノギスを使って、各気筒の高さを揃えればオシマイ。
今回、テキトーな勘でもって各気筒の高さを合わせたのですが、なんと1mmも狂わずに合わせることが出来ました!
コンマ1mmでは狂っているでしょうけど、サービスデータ的にはmm単位なので、そこまでシビアじゃないはず。

と、ここで新たな問題が。

その昔、テキトーな缶スプレーで塗装したトップカバーが、ガソリンに浸食されて見るも無残な姿に…
じゃあ、もう一回塗ればいいじゃない。
と、縁の下に転がっていた剥離剤で塗料を剥がしてみました。

当り前ですが、パーツの下地は普通の金属。
「縮み塗装」だったオリジナルの表面は、風と共に去りぬ。
まあ、黒の縮み塗装の上に安物スプレーで塗っただけなので、厳密にはキレイな縮みも多い隠されていたわけですけど。

さて、これをどうしたものか。
縮み塗装を再現するにしても、塗布して焼き付けが必要となります。
これもまた、ネットで検索してみると、サンメカの皆さんは試行錯誤。
なかには、ペール缶をつないで、乾燥・焼き付け用の炉をつくるツワモノもいるようですが、正直そこまでは力を注ぎたくない、というのが正直なところ。

そこで探し当てたのが、コレ。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

VHT 耐熱スプレー 品番:SP101→118
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舶来物。
VHT社の製品。
何がスゴイって、フツーに塗装するだけで縮み塗装となってくれる。
もちろん、焼き付けた方がベターではあるんですけど。
そして、何より他よりも安い(笑)。
これに尽きます。

使い方は簡単。
ささっとプライマーをスプレー。

多少、厚ぼったくても構わないでしょう。

次に赤を塗装。
部品も小さいし、楽勝。
 
でも、やっぱり焼いてみたいな…と思って鉄製トレイに乗せてガスバーナーでチョロチョロっと焙ったら…

大惨事(涙)。
剥離して、最初からやり直し(笑)。

どうでしょう。
表面がシワシワしてきたのが分かるでしょうか?

携帯の画像ではコレが限界か。
でも、雰囲気は伝わるんじゃないかと…
コツとしては、普通の塗装のように少しずつ上乗せするのではなく、多少ムラが出来てもいいので、厚ぼったく乗せることでしょうか。
塗膜が薄いと縮みがイマイチのようです。

そして、焼きつけていないと、結構塗膜が柔らかいので、ご注意を(涙)。
こんなに気を遣っても、2、3番はもちろんのこと、1、4番の外側しか見えないんですけどね。

何とか形になりました。
ところで、これしか使わなかった縮み塗装のスプレーですから、しばらく保管となるんでしょうけど、保管する時は、いったん缶を逆さにして吹いてやります。
これは、塗料がノズルに残っていると乾燥して経路をふさいでしまうから。
ガスで経路の塗料を飛ばしてからしまうと、次にも使うことができます。