8月19日 [礼文島~利尻島~稚内] 天下無双、利尻の味『ミルピス』
朝、6時起床。
顔も洗わずに、ジーパン、革ジャンを着込む。
島内の道路はほぼ走ったつもりだったが、何と礼文林道を忘れていたのだ。
昨日のヒマなうちに走っておけばよかったぜ。
天気もイマイチだし…と、後悔してもはじまらない。
礼文林道は島の南側から北に向かって8kmくらいのフラットダート。
Zで走れるくらいのダートなので、ハッキリ言ってどんなマシンでも走破出来るだろう。
香深まで戻り、礼文林道入り口へ向かう。
入り口といっても、出口でもあるわけで、香深井側から見れば、香深が出口ということになる。
キャンプ場からは香深井側の方(北側)が近いが、帰り道を考慮して、香深から進入する。
礼文林道の見どころは、レブンウスユキソウ…親しみやすい名前で言えば、エーデルワイスの群生地。
シーズンは、残念ながら7月下旬まで。曇天模様のせいで、あまり景色はよろしくなかったが、これで島内の道はほぼ制覇。
キャンプ場でパッキングしたオレと笹島さんは、稚内へ戻るブッシュ君と分かれ、利尻島へ向かうフェリーに乗り込む。
実際行く段階までどんな島か分からなかったが、利尻島は山が島になったようなところ…というか、島全体がひとつの山といった方が分かりやすいか。
島の中心には標高1721mの利尻富士がそびえたち、島の周囲を取り囲むように主要幹線道路が走っている。
1周はおよそ54km。信号も少ないので、1時間もあれば簡単に島内を一周してしまう。
笹島さんとともに、まずは時計回りで走ってみるが、雲が多いので景色もいまひとつ。
ヘタすりゃ雨すら降りそうな感じだ。
雨に濡れてはたまらないので、先を急ぐことに。
利尻島は礼文島同様、昆布をはじめとする数々の海産物に恵まれ、それらが名物となっている。
が、この島には隠れた…いや、最近では全国的に有名になった利尻島ならではの、ホントにここでしか入手できないアイテムがある。
そいつが、ミルピスというジュースというか、飲み物だ。
実は、どんなものかとネットで調べてみたのだが「おばさんが親切だった」「美味しかった」ということが分かっただけ。
これじゃ、しょうがないので、ちゃんと細かいことまでインタビューしてきたぜ。
ミルピスが販売されたのは1990年。森原牧場の森原八千代さん(みんながおばさんと呼んでいる方ね)が30年前に開発した牛乳生まれの飲み物だ。
「当時は知人や親戚など近しい人たちにだけ飲んでもらっていたんだけど、ある日観光客に出したらすごく美味しいと言われてね…それで、お店を始めたのよ。これなら、おばさんひとりでも出来るかなと思ってね」
店舗販売したら、ライダーをはじめ、旅行者の口コミで伝わり、その後はみんなもよく知っての通りだ。
でも、ここまで売れたら、利尻島以外でも販売すりゃいいのに。
利尻までは足を伸ばせない観光客もいるだろうし。
「おばさんもそうしたいけど、全部天然の成分で、保存料や着色料も入っていないのね。だから、認可がおりないのよ。だから、ここだけでしか売れないのよねえ」
なるほど…そこで添加物を入れたら、ミルピスの価値は半減するもんな。じゃあ、やっぱしここでしか飲めないってわけだ。
「でもね、冷凍だったら全国発送できるのよ…原液のままでね。ホラ、これに名前を書いてくれれば…」
と、いきなり注文台帳を差し出しながら、飲み方のレパートリーを紹介していく。
ホントに商魂たくましいぜ(笑)!
他にもハマナス、アロエ、ギョウジャニンニクなんかのジュースがあって、こいつらもみんな手作り。
デカいグラスになみなみと注がれたジュースは、長い旅の疲れを癒してくれる。気になるお値段は、ミルピスが一杯350円。
ちょいと高めだが、美味しいし、話のタネにもなるので飲んでみるといい。
ミルピスの店で知り合った、神戸の女性ライダー、原さんも加わり、今度は利尻富士へ…
とか言っても、登山じゃないぞ。
見返台展望台ってところがあるのよ。
ここまでなら、オレでも何とか登れる。
と、思ったが、結構辛い。
何が辛いって、曇天模様からピーカンになった空。
直射日光がオレの体力を奪い、ぶっ倒れそうになる。
展望台から下界を見下ろすも、遠くはガスがかかっていて今ひとつ。
逆方向へ走っていく原さんと別れ、笹島さんとオレは目的のひとつでもある利尻富士温泉へ。
ここは、利尻富士への登山口の途中にあるこの島唯一の温泉。デカい駐車場も用意されており、建物も立派。感覚としては、健康センターと銭湯の中間か。
一応、露天風呂もあり、壁際には打たせ湯もある。
この露天風呂、何がすごいって湯船の中の昆布。
昆布をカウントする単位は知らないが、草木でいうところの一株っていうんだろうか。
とにかく、根っこから昆布が湯船に沈められていたのだ。
「いい出汁が出そうだ」と思って、匂いを嗅いでみたが、昆布の香りまではしなかった。
そりゃそうだ。次から次へとお湯が沸いてくるんだもんよ。
本当は利尻島で一泊しようと思ったのだが、利尻富士には登らないし、明日の天候もイマイチっぽかったので笹島さんとともに稚内へ戻ることに。
夕方までノンビリと温泉に浸かり、ご機嫌のまま船に乗る。
デッキに出て、夕闇に霞む島を振り返った。
トレッキングもしなかったし、登山もしなかったけど、それでも礼文・利尻の島は十分に楽しませてくれた。
逆に今回は、サラリと見ただけでよかったのかもしれない。
トレッキング、釣り、登山、植物観察…やりたいことを全てやってしまったら、次にくる楽しみが薄れてしまう。
「次回はトレッキングシューズを持ってくるぜ!」
島を指差して力強く叫んだ…と言いたいところだが、他のお客さんがぶったまげるとヤバいので、心の中でそっと呟いた。
稚内に到着した頃には、空は真っ暗。
風も強い。
笹島さんとオレは、稚内市内のキャンプ場へ向かった。
ここには昨年も泊まったことがあり、あちこちに『クマが出ます!残飯はゴミ箱へ』てな張り紙が貼ってあった恐ろしいキャンプ場だ。
しかも、途中には墓場まであって、何とも薄気味悪い。
そのかわり、高台にあるので眺めはバツグン。
ひとまずテントを設営して荷物を放り込む。
本当なら昨日に続いてつまみでも作りながら一杯やりたいところだが、船旅でくたびれたのと、もんのすごい強風なのでメシを作る気力もない。
夕食は街のコンビニで購入した弁当で済ませてしまう。
【今日の温泉】
利尻富士温泉。
利尻島の北側、本泊から利尻北麓野営場へ登るようにして走ると、右手にある。温泉の看板を探そうとすると見失うおそれがあるので、甘露泉水を目指すと分かりやすい。ちなみに、キャンプ場はそのまま利尻富士の登山口になっているので、ここでベースキャンプを張るといい。
温泉は町の施設で、正確には『町営利尻富士温泉保養施設』という名称。
1998年にオープンしたばかり。ジャグジー、サウナ、露天風呂がある。
泉質はナトリウム塩化物炭酸水素塩泉。効能は関節痛や冷え症、神経痛、皮膚病など。
登山客が多いことから、コインランドリー、乾燥機、温泉の必須アイテム(?)の卓球台もある。
料金は中学生以上の大人400円、幼児100円、小学生と70歳以上200円。
8月20日 [稚内~和寒] 半強制 ウルルン滞在記
寒い!寒いぞ!
起きたら、身体が冷え切っていた。昨日の夜から稚内は風が強く、とても寒かった。
昼間は利尻島で汗だくになり、夜は稚内でガタガタ。十和田湖同様、ここでも暑くて寒い一日を過ごしたわけだ。
稚内から飛行機で帰る笹島さんと別れ、一気に宗谷岬へ向かう…と、その前にガソリンスタンドへ。
稚内には最北端のホクレン(ここが最果てのガソリンスタンドではない)があり、そこで旗をもらうと『最北端』とスタンプが押された旗をもらえる。
昨年もそうだったが、宗谷岬は天気が悪く、強風が吹き荒れている。
まあ、風は仕方ないんだが、天気がね…晴れてればスカっとした気分で岬に立つのだが…とにかく、寒くて寒くて大変だった。
しかも、こころなしか雨が降っているような…
この寒さで雨に降られたらたまらないので、さっさと引き上げる。
が、ここで慌ててはいけない。宗谷岬のすぐそばのガソリンスタンド、ここが正真正銘、最北端のガソリンスタンドなのだ。
この出光安田石油店でガソリンを入れると、ちいさなホタテ貝で作った交通安全のお守りをくれる。
コレがまた、もらってうれしいアイテムのひとつ。
ただ、壊したりなくしたりしやすいので、タオルか何かにくるんでおくか、余裕があるなら車体の収納スペースに入れておくといい。
宗谷岬から238号線をたどって南下するが、オホーツク海から吹き付ける風はとてつもなく強い。
身体もこわばって、運転どころではない。
このままオホーツク沿いは走れないってんで、クッチャロ湖がある浜頓別町から国道40号線を通って内陸へ入る。
20kmも進むと、風も緩やか、もはや革ジャンすら邪魔になってくる。
途中、名寄のヒマワリ畑に立ち寄る。
どれだけすごいのかと思ったら、畑の端っこが見えないくらい、地面がヒマワリで埋め尽くされている。
ホント、すごい光景だ。北海道はラベンダーが有名だけど、このヒマワリも美しい。
名寄から南下すれば、旭川までは直線距離で60kmくらい。
後は美瑛、富良野が続くわけだが、これじゃ面白くない。
せっかくなので道東もちらっと覗いてみることにする。
だが、そろそろオイル交換もしたい。
旭川まで行けば、バイク屋もたくさんあるだろう。
それから国道333号線を走り、留辺蘂(るべしべ)の温泉に入ろう。
そうしよう。頭の中は温泉で一杯だった。
和寒に入り、ちょっと休憩しようとドライブインらしきところに折れたら、すぐ傍にバイク屋がある。
こいつは渡りに船だ。
「すいません」と店に入ると、小さな犬が迎えてくれた。
オイル交換をお願いしたいと申し出ると、少し待ってくれと言われる。
どうやら、他のお客さんの車をいじっている様子。
町工場くらいあるガレージにはバイクの他に、スノーモビルや車が並んでおり、エンジンがついているモノは全て扱う店のようだ。
時計を見たら、1時半。
どうせエンジンを冷ましてからでなければ、オイルも抜けないので待つことに。
いよいよオレの番になり、社長が手際よくオイルを抜いてくれる。
見た感じ、頑固オヤジっぽい。
実は、オレは頑固オヤジってのが苦手である。
黙ってテキパキやってくれりゃいいが、聞きもしないのにアレコレ自分の哲学を押し付けてくるヤツが多いからだ。
幸い、ここの社長は、余計なことを言わず作業を続ける。
しかも「ゆっくりしていけ」とまで言ってくれる。
「ゆっくりしていけ」とは、どうやら泊まっていけという意味らしい。
しかも、ここには「ライダーハウス」もあるという。
ここのバイク屋、非常に風変わりで、オレが見ただけで犬が5匹、馬だかポニーが3頭、合鴨が2羽、アヒルが3羽、他にも烏骨鶏、イタチか何かが1匹…と、まるでムツゴロウ王国だ。
個人的にはアヒルに惹かれたが、ここのアヒルは知らないヤツを見ると吠えながら退散してしまう。
ちなみに、オレのムスメでもあるウチのガチョウは、知らないヤツを見ると容赦なく攻撃を始める。
ていうか、毎日顔を合わせている家の連中にすら、気に入らないことがあるとギザギザのついたクチバシで噛み付いてくる。
これが大層痛くて、年寄りなんかが噛まれた日には、血管が破れて内出血。オレも幾度となく酷い目に合わされている。
夕飯時までやることがないので、ブラブラしてたら、ドライブインにカブに乗ったライダーが現れた。
聞けば、同じ東北人。彼は根本君といって、数ヶ月前に会社を辞め、北海道を旅行しているという。
彼もどこか目的地があったらしいが「ここの社長に聞いてみたら?ライダーハウスもあるらしいし」と勧めてみる。
とかいってたら、別のライダーも興味深そうな顔をしている。
社長に「ライダーハウスがあるなら、泊まりたいらしい」とその旨を伝えたら、オレに「泊まっていけ」と言った時とは全然違う、露骨にイヤそうな顔をした。
しかも「泊まるからには…」と、後からとってつけたようなルールまで言い出す始末。
結局、そのライダーは次の目的地まで走ることになり、根本君だけが留まった。
その態度に、内心オレはカチンときていた。
オレ自身、何度も「今日はもう少し走りたいので…」と、やんわりと断ったのだが「急ぐ旅じゃないだろう」「ライダーハウスがあるから大丈夫」と半ば強引に引き止められたので、泊まることにしたのだ。
そりゃ、オヤジにしてみれば、親切心からオレに宿を提供してくれたのだろう(そうであって欲しい)。
図々しい考えかもしれないが、オレのことを気に入ってくれたからなのかもしれない。
だから「彼らも他に泊まるところを探しているらしい。まだ何とも言っていないが、彼らを誘ってみてもいいだろうか」というニュアンスで聞いたのだ。
その後が大変で、社長の息子とゲームはやらされるわ、何だか知らないが細かいことでアレコレ怒られるわ、無理矢理ビジターノートは書かされるわ…散々だった。
まあ、夕飯、朝飯もタダで食えたし、寝床も貸してくれたので、プラスマイナスゼロかもしれないが…
だが、どうも後味が悪い一日だった。
あれこれ言われながら泊まらなけりゃならないなら、その辺で野宿をした方がよっぽど気楽だったかもしれない。
風呂も入れなかったし。
他にも、いろいろと気になる部分があったのだが、これ以上はオレの胸にしまっておこう。
ちなみに、あくまでオレ自身の感想で、バイク屋自体を評価するものではない。
8月21日 [和寒~屈斜路湖] ガリガリ君
朝、軍隊のように社長の一喝で叩き起こされ、そのまま朝飯に突入。
飯を食った後は、さっさとパッキングして出かける準備を始める。
社長は「まだいいじゃない」「どうせ、急ぐ旅じゃないんだろう」と言うが、それすらも癇に障る。
どうせとは何だ、どうせとは。
確かに目的地の礼文・利尻を回り終えた今、それほど綿密にコースを決めているわけじゃない。
だが、そいつはオレの中でのことで、あんたが決めることじゃない。
毎日会社勤めしているライダーのほとんどは、旅行のために給料をやりくりして、いろいろと計画を立てて北海道に渡っているんだ。
「いやいや、ホントは急ぎの旅なんですよ」とだけ言い放ち、オレはさっさとエンジンをかけた。
社長は「冷たいヤツだ」と表情を曇らせたが、十分にアイドリングさせることもなく、マシンを走らせた。
いつまでも腹を立てても仕方ないので、気を取り直してアクセルを開ける。
こういう時、脳天気なオレはすぐに気分を変えられる。
さあ、今日は何処へ行こうか。
マシンのタンクをポンと叩き、タンクバッグの地図に目を落とした。
昨日、オイルを交換したので旭川に南下しなくてもいい。
昨日の目的地、留辺蘂にするか。
それじゃ、午前中で走り終えてしまう。
周辺に面白い場所があればいいが…いや、留辺蘂まで行くなら、屈斜路湖へ行ってみるか。
美幌から屈斜路湖に抜けるワインディングは、ものすごく楽しかったはずだ。
そうと決まれば、後はスロットルを捻るだけ。
東へ東へと進み、昼過ぎに北見へ到着。
コンビニで軽い昼飯を食う。
ここまで来れば、美幌峠は目と鼻の先だ。
ところで、去年もそうだったのだが、美幌町から美幌峠に抜ける243号線に入る時、何故か迷ってしまう。
道路標識が不親切なのかもしれないが…
この美幌峠、展望台から見下ろす屈斜路湖に目を向けがちだが、個人的には街中から峠の展望台まで登るプロセスが好きである。
だだっ広い緑の丘陵地帯を走り抜け、遠くまで続く緑の丘を見下ろす間こそ「ああ、北海道に来たなあ」と思うのである。
もちろん、峠も素晴らしい。
未熟な腕とマシンの重さもあって、オレは思うように下れないが、屈斜路湖から上への道は最高。
オレが走った中では、北海道でも屈指のワインディングである(なんてカッコいいこと言ったりして…)。
特に、展望台のすぐ下のヘアピンは、ステップガリガリのフルバンク・ゾーン。
別にステップ擦りゃいいってもんじゃないが「ああ…ワタクシ、バイクに乗っていて幸せでございます」と目玉に星、背後にバラが咲き乱れる。
あまりにも楽しかったので、一旦、屈斜路湖のキャンプ場に荷物を降ろしてから、何往復も走ったもんな。
こんなことばかりやっているから、タイヤはズルズル。
「9月にはSUGOの走行会があるからなー。ちょっと右コーナー練習しておこうかな」と走った結果、タイヤとステップの右側が異様に減ってしまった。
仕方ないので、展望台の電話からバイク屋にタイヤを発注しておく。
昨年はテントを張る場所を見つけるのも大変だったのだが…ガラガラのキャンプ場というのも寂しい
今日のキャンプ場は、屈斜路湖の南側、和琴半島にある『和琴キャンプ場』。
ここも去年利用した所なので、勝手は分かっている。
キャンプ場の近くに露天風呂もあるのだが、それほどたいしたことはないと言われていたので、パスする。
昨日は風呂に入れなかったので、今日は近くの旅館、湖心荘の内風呂へ入る。
夕方前だったので、貸切状態。
丹念に身体を洗い、十分に旅の疲れと埃を落とした。
風呂に入ったら、ドっと疲れが出たので、今夜はカレーライスとシーチキンという簡単メニューで済ませてしまう。
【今日の温泉】
『湖心荘』内の内風呂。泉質は重曹泉。効能は神経痛、痛風、婦人病など。
場所はちょっと分かりにくい。奥のキャンプ場(東側)に泊まったなら、西側に向かって歩いた先に建物が見える(もうひとつのキャンプ場の入り口付近)。
ひっそりとした宿だが、シーズン中なら車がたくさん停まっているので分かるはず。
入浴料は400円。
8月22日 [屈斜路湖~羅臼~阿寒~留辺蘂] 涙、涙のオンネトー
今日の目的地は、昨年素通りした中標津の開陽台。
地平線まで続く弾丸道路と、展望台からの視界330度の眺めで知られる。
そのふたつに惹かれたライダーたちが集まるため『ライダーの巣』としても有名になっている。
実は昨日の段階で開陽台を目指したのだが、途中で雨にやられて引き返してきたのだ。
今朝も見上げる空は灰色で、ところどころ雨に濡れた形跡がある。
だが、天候が回復する兆しもないので、先へと進む。
地図で確かめてもらえば分かるが、この辺は多くの直線道路が交差している。
あまりに直線的で気持ち悪いが、走れば快適そのもの。
きっとこの辺で最高速アタックに挑む連中もいるんだろうが、農家のみなさんが仕事で使う道なのでムチャはしないように。
開陽台に到着しても、天気はイマイチどころかイマサンくらい。
330度のパノラマも、低く垂れ込めた雲に遮られてしまっている。
しばらく待ってみたのだが、一向に回復する気配はない。
展望台の裏側に回るとキャンプ場があり、ブルーシートを敷き、ロープに洗濯物を干した、いかにも「連泊」というようなテントが並んでいる。
天気がよければ、昼間は地平線の彼方、夜は満天の星空を満喫できるのだろう。
残念ながら、道内の天気は下り坂。
泣く泣く開陽台を後にする。
さて、これからどうしようか。
ここから戻るのも何だし、先へ進むなら海まで抜けて根室か羅臼に行くことになる。
「どうせここまで来たんだ。羅臼まで行って、クマでも食ってみるか」
羅臼の先、あと少しで知床の先っちょ…という場所にあるライダーハウス『熊の宿』では、クマ、トド、シカなどの珍しい獣肉を食べさせてくれる。
昨年はここに宿泊し、海沿いの相泊温泉に入ったのだ。
国道335号線に乗り、ガンガン北上。
熱いクマ鍋を頭に浮かべながら走ったら、11時半頃には『熊の宿』に到着。
昨年同様、クマ鍋、トド刺しをオーダー。
「クマの肉は臭くて…」という人もいるが、ここのクマ鍋はそんなことない。
香辛料で巧く臭みを消しているのだろう。
ちなみに、ここで料理を食べると、証明書をもらえる。
オレもめでたく2枚目の証明書をゲット。
腹を満たした後、羅臼岳を目指すようにして知床峠を走る。
ここのワインディングも強烈で、なかなか熱い走りが楽しめる。
展望台を境にして、羅臼側の連続コーナーは本当なら何往復もしたいところだが、時間がなかったので先を急ぐ。
斜里町に入り、ガソリンを補給。
向かいのコンビニでダラダラとしていたら、ガソリンスタンドに見覚えのあるマシンが。
利尻島で一緒にミルピスを飲んだ原さんのSRVだったのだ。
「何でェ!?やーすごい偶然やわあ!」
桂小枝のような口調で、原さんが目ン玉を引ん剥く。
あれから彼女も稚内へ戻り、羅臼岳に登るためにここまで来たのだという。
利尻富士を登ったり、羅臼岳に挑もうとしているが、一体彼女は何が目的なのだろうか。
「去年、とりあえずバイクでほとんど回ったから、今年は山を登ろう思って…」
すごく小柄で、バイクの運転も危なっかしい時があるのに、体力だけは男顔負けだ。
大体、羅臼岳ってクマが出るんじゃないのか?
しかも、羅臼岳の後には大雪山にもチャレンジするという…脱帽でござんす。
お互い旅の無事を祈り、オレは網走方面へ、原さんは知床五湖へと向かう。
ちなみに、斜里町側の知床半島の先端近くには、これまた有名な『カムイワッカ湯の滝』という温泉がある。
10kmくらいのダートを突き進み、さらに沢を登ったところにある滝つぼ状の温泉で、一度は行ってみる価値がある。
ただ、川そのものが温泉、しかも強い泉質のため岩がヌルヌルというかツルツルで、ものすごく滑りやすい。
そのうえ、お湯が目や鼻などの粘膜、傷口なんかに入ると、とてつもなく痛いので「気持ちいいなあ」と入れる温泉でもない。
まあ、後々の話の種というか、遊び心で訪れるのがよろしい。
川の入り口でわらじをレンタルしているが、オレは裸足で踏破したので、普通の人なら便所サンダルで十分だろう。
で、行きも滑って転ぶなら、帰りも同様。
カメラなんかを壊したりする人が多いので、気をつけるように。
それと、多分100人中99人くらいがドロドロになって帰ってくるはずなので、そしたら近くの岩尾別温泉に入って、ここで本格的に汚れを落とすと…
あとは、7月下旬から8月中旬までは一般車輌が入れず、シャトルバスを使用しなければならない。
その辺のスケジュールを確かめてから行った方がいい。
この辺、他に見たい所もなかったので、小清水から南下。屈斜路湖と摩周湖の間を走る。摩周湖は一度行けば十分なので、阿寒湖の近くにあるオンネトーを目指す。
この間、いくつかの峠道を走ったが、あるコーナーでフルバンク中、シカと遭遇。
何をする風でもなく、路肩で突っ立っていたシカ。こっちはケツをずらして踏ん張っていたのに…シカはシラーっとこっちを眺めるだけ。逃げる様子もない。
そんなにオレの走りはヘタレか?野生動物が退散しないくらいだから、相当ヘタレなんだろうなあ。
オレにとって、オンネトーは、ちょっとした思い入れがある。
斎藤純の『暁のキックスタート』(廣済堂文庫)を知っているだろうか。
全体のストーリーや感想は別の機会に紹介するが、かいつまんで言うと、バイク乗りでもある斎藤氏が、小説家の「ぼく」を視点として綴った短編集だ。
別の主人公が登場する話もあるが、多くは「ぼくは…」という形で物語が進行する。
その中のひとつに、こんな話がある。
主人公は仲間と連れ立って、入院している友人の見舞いに行く。
友人は女性で『僕』とはバイク仲間。
だが、難病にかかっており、治っても再びバイクに乗ることは出来ないらしい。
仲間たちは、おのおの考えに考え抜いた見舞いの品でもって、彼女を元気づけようとする。
ただ、彼らの仲間のうち、ひとりだけが姿を現さない。
最後の方でようやく姿を現すのだが、服は汚れ、声はかすれ、ヘトヘトになっている。
彼は彼女のためにオンネトーの水を汲んできたのだ。
難病に効く水でも何でもないんだけど、彼女は誰の贈り物よりも喜ぶ…
二人の会話がこの話のキモなので、あえて書かないけど、そこんとこでオレは不覚にも泣いてしまったのよ。
クサい台詞もないし、ドラマチックな仰々しい演出もないんだけど。
普段バイクに乗っている人はもちろん、バイクに縁のない人にもお勧めの一冊だ。
んなもんだから、阿寒湖は見ずともオンネトーは行くぜ!と息巻いていたのだ。
摩周駅付近から国道241号線を西へと進み、峠に入る。ここから阿寒湖までの峠道もなかなか楽しい。
雄阿寒岳、雌阿寒岳をかいくぐり、左手に折れる。
この細い山道を抜ければオンネトーだ!!
胸を高鳴らせ、駐車場にマシンを停める。
ついにオンネトーとご対面だ!
上の写真、見ましたか?アタクシの腕のせいじゃないですよ。
誰がどうみても、こうしか見えなかったのだよ。
「これが…オンネトーすか?」
水際は茶色く濁っているし、ひいきめに見ても神秘的とはいえない。
コバルトブルーの美しい湖面を期待していたのだが、何の変哲もない沼だ。
ブラック・バスが釣れるウチの近所の沼みたいだ。
おそらく、雲が厚くて日がささなかったためだろう。
ここまで頑張ってきたのは何のためだ…オンネトーを見るためじゃないのかよ!!
待てよ。
ここの温泉に泊まり、明日の朝一番で来ればまた景色も違うのかもしれないぞ…とも思う。
だが、結局オレはここには泊まらず、断念しかけた留辺蘂の温泉に行ってみることにした。
留辺蘂にこだわるのは、別にこの温泉にどうしても入りたかったんではなくて、三国峠を走りたかったから。
地図を見れば分かるように、留辺蘂、三国峠、帯広の順で走れば富良野へ行ける。
足寄の街中まで抜けて、そこから上士幌を通って糠平…という手もあるが(地図のない人ゴメンよー。分かりにくいよな)、そうすると一度走った道に戻ることになる。
どういうわけだか、オレの中で同じ道を走るのは「ルート作りに失敗した」という意味を持っている。
んなもんだから、なるべく走っていない道を進みたかったのだ。
とはいえ、そろそろ夕方になる。
ナイトランだけは避けたいので、出来るだけ最短ルートを選択。地図を見ると、ショートカットすれば30kmは違う。ちなみにそこはダート。
みんなね、Zでダート走るとすごいとか言うけどさ、大丈夫なんだって。
大体にしてZが出た頃の道路なんて、みんなダートみたいなものじゃない。
深いジャリダートならヤバいけど、普通の林道なら大丈夫(そのかわり、慣れないうちはゆっくり走ろう)。
とはいえ、あんまりダートが長いと距離は稼げても、かえってタイムロスになる。
とりあえず足寄川沿いの細い舗装道路を走り、カネラン峠に入る。
この峠は4kmほどダートが残っている。右に左にケツを振りながら、ダートを突き進む。
たかだか4kmなので、ダートはすぐに終了。
峠が終わると陸別駅の前に出るって寸法だ。これでも20kmは違うんじゃないか?
留辺蘂つつじ公園キャンプ場に到着したのは、日が暮れる直前だった。
まだ日の光があるうちにメシを食い、一服してから近くのホテルの温泉に入る。
でかい高級旅館の内風呂だけあって、料金もバカ高い。
キャンプ場が無料だった分、トントンだ。
その代わり、風呂からあがった後にロビーでマッサージチェアを使う。
普段は有料らしいのだが、ここのオバちゃんがタダで使わせてくれた。
「オバちゃん、北海道は暑いねえ。ビックリしたよ」
「ホントにね。今年こそは涼しくなると思ったのにさあ」
「去年よりも暑いらしいねェ」
「暑いなんてもんじゃないわよ。あたしの家じゃ今年初めてクーラーを入れたよ。60年生きてきて、こんなのは初めてだよ」
なんて会話をしながら、500km近く走った身体をゆっくりとほぐしてやる。
キャンプ場に帰ると、倒れるように眠ってしまった。
が、夜の3時頃、エラい爆音で目が覚めた。
普段、暴走族のコールくらいじゃ目を覚まさないオレが跳ね起きたのだから、よほどの大音量である。
上半身を起こすと、テントをバラバラと叩く音がする。
そう、いつの間にか雷雨になっていたのだ。
この雷雨がすごくて、稲妻が光った直後にゴロゴロと重低音がこだまする。
すんげえ近くで鳴ってるわけだ。
別に雷なんか怖くないが、叩きつけるような雨には「ゴメンナサイ」だ。
次の日まで降るようなら足止めを喰らう。
運良く晴れたとしても、カラっと晴れてもらわないと濡れたテントをしまわなければならない。
アレコレ考えても仕方ない。どんなに頑張っても、自然には勝てないのだ。
それがいやなら、最初から宿に泊まればいいのだから。
タバコを一本吸ってから、オレは再び眠りに落ちた。
【今日の温泉】
留辺蘂温泉。大江本家の内湯。単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉)。
効能は神経痛、皮膚病、婦人病など。
入浴料は800円と高め。
温泉浴槽、ジャグジー、打たせ湯、寝湯、子供用滑り台、 ドライサウナ、ミストサウナ、水風呂、かけ湯、家族風呂など。
Summer Touring 2000 東北・北海道 1
Summer Touring 2000 東北・北海道 2
Summer Touring 2000 東北・北海道 3
Summer Touring 2000 東北・北海道 4
Summer Touring 2000 東北・北海道 5
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