2022年03月21日 Z1Rに新品TM38キャブとヨシムラMJNを搭載

Z1R-II

2022年3月16日、23:30頃。
宮城県と福島県をはじめ、多くの地域を襲った震度6強の地震。
幸いなことに我が家は棚から本が落ちてきた程度だったけど、仕事でよく訪れる福島県の浜通りでは、道路がめくれ上がったり、屋根の一部や擁壁が崩れている家もあった。
停電や断水などで不便な日々を強いられた方々も多かったと思う。
被害にあった方々には、お見舞い申し上げます。

東日本大震災の時、思いのほか役に立ったのがバイク。
路面のコンディションが多少悪くてもバイクだったら難なく越えられたし、走破性が高い軽量のオフ車は大活躍だった。

というわけで、本来はZ1RもDT125Rも、スクランブルに対応しておかねばならないのが被災地住民の心得だと思っているのだが、このところ、Z1Rはすこぶる調子が悪い。

TM38キャブが不調なのだ。
先日、ヨシムラから届いたパーツも新調したから、シーズン到来に向けて準備OKのはずが、火が入らないシリンダーがあって、近所中にミスファイアによる銃声を轟かせる始末。

バラして清掃して組み付けると一時的に好調を取り戻すのだが、翌週になるとダメになる。
考えてみると20年近く使った中古品(ヤフオクで2万円だか3万円で落札)だから、ボディを分割して、ネジの一本、パーツひとつひとつをバラした本当のオーバーホールが必要なのかもしれない。

そこまでやれば新品同様になるかもしれないけど、おそらく工賃だけでも片手を超えるだろう。
だったら、新品を購入した方が、まだいいのではないか…
という発想で TM38(くどいようだが、TMRではない。TMね)の新品を購入、これにMJNを組み込むというのが今回のプロジェクト。

手順はこんな感じ。
1.旧キャブからMJNのパーツを抜き取る。
2.新キャブから純正のジェットとノズルガイドを抜き取る。
3.新キャブにMJNのパーツを組み付ける。

そんなに難しいことは無いハズ…1時間もあれば終わるのではないだろうか。

まずは、新キャブの屋根(トップカバー)を外して、ニードルを抜き取る。
ニードルは小さなステーで止まっているだけ。
極細の六角レンチでステーというかストッパーを緩めると、簡単に抜けてくる。

が、ここで問題が。
トップカバーを外そうとネジを緩めたら、塗装が剥がれたではないか!
TMキャブのトップカバーといえば、高級感あふれる縮み塗装なのだが、ネジを締めてから塗装してるの?
釜で焼き上げる縮み塗装の工程上それはあり得ないんだけど…どういうこと?
とにかく、のっけから顔が青ざめる事態に。

知り合いに泣きついたら「あるある」なんだそうで…

気を取り直して、ニードルを抜いてゆく。
新品だから、あまり意味はないかもしれないけど、外した部品は念のため気筒ごとに分別して保管。

同じように既存のキャブからもMJNを抜き取り、あとは新品キャブに刺せばオシマイ…なのだが…

ガビーン!

スライドバルブのニードルを入れる部分、ここの形が微妙に違う…!
バルブもMJN仕様ってことなの?

MIKUNI純正は、〇型
MJNがついていたキャブは長方形。
このままMJNを刺そうとしてもストッパーがかからないし、径も小さいから最後まで刺さらない

慌てふためいて、Zの大御所へコールすると…
「スライドバルブも交換しないとダメよ」との回答。
「細かいパーツが沢山あるから紛失しないように注意して作業すれば、そんなに難しくないから」
とアドバイスを頂く。

まずはスライドバルブをフリーにする。
旧キャブは〇んところの穴を六角で回すのだけど、新キャブは+ネジになっている。

後期型は、こんな感じの+ネジ。

スライドバルブは、脇っちょのEリングを外せば抜けて来るらしいのだが、アームと連結するパーツはワッシャーやらカラーなど細かいパーツが(赤い棒で指しているところ)。

旧キャブは、汚れと経年劣化のせいで良く分からないが、新品キャブはご覧の通り。

Eリング、ワッシャー、樹脂製カラー、連結パーツ、樹脂製カラーの順に並んでいるのが分かる。
旧キャブから現行キャブはパーツや素材がアップデートされているかもしれないけど、スライドバルブの動きが悪い時は、ここを全交換したらいいんじゃないだろうか。

右が新キャブ、左が旧キャブについていたMJN用のスライドバルブ。
通常のニードルは断面が円形なので、なかで回っても影響はないが、MJNは横穴が空いた筒状のニードルなので、向きが固定される。
そのため長方形の「回り止め」をつけている。
バルブ自体は同じ寸法。

4気筒すべてのスライドバルブを抜いたら、ノズルガイドを抜き取る。
フロート室を外すのだが、新品のせいなのかムチャクチャ硬い。
どういうわけか、ここのネジは本当に柔らかいのでピッタリサイズのドライバーでしっかり食い込ませて回してやるのだが、残念ながら2本やっつけてしまう。
開ける時に「バキ!」って音がするくらい締め付けていたのだが、やり過ぎにもほどがある。

あと、この段階でやれるべきことはやっておく。
たとえばPJ(パイロットジェット)のサイズチェック。
デフォルトは17.5なのだが、万が一、違うサイズが入っていたら困るので。

問題ございません。
強いて言えば、問題は刻印された文字の小ささ。
メインジェットもそうだけど、もう少し大きく太い字で彫ったらいいのに。

それから油面調整。
ストックの状態で、どれくらい狂っているのかと思ったら、1気筒だけ、1mmズレているだけ。
1mmの調整って要るの?そんなドンピシャで調整できるの?
と思ったし、フロート外して板を曲げて…が面倒くさかったので、このままの状態で。

ノズルガイドとMJN用のニードルジェットを入れ替えたら、フロートの蓋を閉じる。
と、その前に加速ポンプをキャンセルする。
MJNなら加速ポンプは不要だったハズなので。
やり方は簡単。
加速ポンプがついたフロートのOリングを他の3気筒と同じものと変えるだけ。

ここまできたら、いよいよMJNを装着する。
途中でニードルが引っかかる時は、無理して突っ込まないように。
ノズルガイドにニードルが収まるのは他のキャブと同じ。
何かの間違いでノズルガイドとニードルが平行になっていない状態、つまりノズルガイドのなかでニードルがひっかかってしまうとニードルが曲がってしまう可能性もある。

本体裏側、スライドバルブに当たる壁に金色の凸があるが、バルブ張り付き防止のパーツ。旧キャブには無かった

機構的にそういうことはあり得ないんだけど、少なくともスムーズにインストール出来ない場合は、何かの不具合がある、と考えた方が良い。
特にキャブレターのような「ちからわざ」がNGのパーツには、引っ掛かりとか、何かがオカシイ時は絶対にそれ以上の力を入れたり、無理に進めようとしてはいけない。
スライドバルブの開閉も、最初は細心の注意を払って行うこと。
これを大丈夫、大丈夫で進めて失敗するのがサンメカの常なので。

問題がなければ、スライドバルブの全閉位置を調整する。
スライドバルブをフリーにするのに緩めたネジ、ここに六角ナットがついていないところがある。
これが基準となる気筒で、このバルブの隙間と同じになるよう他の3気筒を調整する。
工場出荷状態でキチンと合わせているハズだけど、狂っていたら適宜修正する。

旧キャブから赤い屋根も移植。ヨシムラが入っているのでOKでしょう(笑)

あと、これまた一応だけど、PS(パイロットスクリュー)もセッティングしておく。
マニュアルでは3/4(75度)と記載しているけど、エンジンの個体差、排気量や仕様によっても違うので、そこは自分なりのテイストで。
我が家のZは3/4まで行かなくてもいい感じだけど、新品キャブじゃなかったので、その辺はここから煮詰めていく。
調整の仕方としては、アイドリングを高めにしておいて、PJを少しずつ開いていって、高止まりしたところが最適なポジションらしいのだが、あまりうまくできなかった(プラグが煤だらけになった)。
だいたい3/4まで開いていれば、問題ないだろうな、という感じ。

ただ、新品のせいなのか、締め込んだ時の感覚が鈍い。
ここを力任せに締め込んで、PSの先端部を折ってしまったら、キャブは即死する。
爪楊枝並みの先端がボディに食い込んだら、素人の手には負えない。

内燃機屋に送るとか、キャブの全バラ&組みつけを生業としているショップにて摘出してもらうほかないので、この締め込み過ぎは要注意。

「もっと力を入れたら締まるのに…」というところで、やめておいた方がいい。
締めたPSは、どうせ後から戻すのだから、そんなに無理矢理回さない。

キャブレター本体の調整が終わったら、いよいよエンジンに組み付ける。
あとは火を入れるだけ…と思いきや。

「と思いきや」は、もはやこのブログの定番フレーズなんだけど(笑)、スロットルワイヤーがリンクに入らない。
そんなはずあるの?と旧キャブとのサイズを比較したら僅か1mm穴が小さい!

もうホントに疲れるんだけど、再度キャブを外し、リーマーで少し穴をさらってやる。
もう大丈夫?大丈夫よね?とワイヤーを組みつける。

スパークプラグも新品に交換、それとK&Nのフィルター、キャブに着く部分のゴムが変形して外れやすくなってしまったので卒業頂くことに。

K&N、10年位前は4つで1万円しないくらいの価格だったのに、いまでは1個5000円じゃ買えない。
悩んだ挙句、こちらをチョイス。

PMCで取り扱っているブランド。
K&Nの半額で購入できるのでオススメだけど、高級ブランドじゃないとイヤだ!
ていう人には向かないかも。

パワーフィルターを取り付けたら、いよいよエンジン始動。
チョークを引いて、スターターボタンを押して、セルモーターが回る。
空っぽのフロートにガソリンが注入されるまでは燃焼室に混合気が届かないから、火は入らない。
祈りながらボタンを押し続けると、ヴォン!と軽やかに火が入った。

チョークを戻してスロットルも全閉位置にする。
見事にアイドリング。
スロットルをあおると、スムーズに回り、そして瞬時に回転が落ちる。
旧キャブのようなスライドバルブがゆっくり戻るようなレスポンスではない。
逆にリニア過ぎて怖かったので、気持ち多めにワイヤーの遊びを取った。

ガソリンタンクを載せて、タイヤの空気圧をチェックして、いよいよ実走。
停止状態からの走り出しもスムーズで、低速から中速までストレスなく走れる。
レーシングキャブレターだろうが何だろうが、走る場面が公道なので、アイドリングと低速から中速までがしっかり使えないと話にならない。

逆を言えば、5速6000回転なんか使い物にならなくていい。
時速でいうところの80kmまでがちょっとしたギアチェンジとアクセル操作で簡単に出てくれないと、ギクシャクした走りになって、街乗りでも不安になり、結果それがストレスとなって、ついには乗りたくなくなる。
そりゃそうだ。
重量300kgのバイクが途中で動かなくなったら、お手上げだもの。

まだ寒かったので町内一周程度の走行だけでテストは終わったが、もう少し暖かくなったら本格的にテスト走行をしてプラグの焼け具合(といってもベットリと煤がつかなければOK)をチェック、本格的なシーズン到来に備えようと思います。

ちなみに前にも書いたけど新品TMキャブはebayで購入。
日本円でいくらになるのかレートによっても違うが、購入を検討した時期、2021年の11月とか12月くらいは647ドル+送料で約85000円。
おそらく新品のキャブを購入する手段としては最安値。

TM(RS)キャブ用のMJNは既に廃盤(単気筒のスモールボディは現行で売っている)、ノズルガイドはミクニが作ってくれたがニードル本体、専用のスライドバルブは入手できないため、おそらくこの仕様で稼働しているZはほとんどいないだろう。
そもそも、たいていのZがTMRやFCRになっているだろうし。