先日、クラッチ板を交換して、おそらく完調を取り戻したZ1R。
何故あんなに修理を急いでいたのか。
実は、この日、会おうと約束していた人がいたのだ。
1999年の夏、オーストラリアから帰国して1年ぶりのロング。
それが北海道ツーリングだった。
道内に入ってから5、6日目、知床半島を目指して走っていた。
知床半島の突端には、クマやトドの肉を食わせてくれる店があり(既に廃業)、そこで飯を食えば無料でライダーハウスに宿泊できると聞いていたのだ。
予定通り、クマ料理を食べた後「ライダーハウスに泊りたい」と申し出たところ「構わないけど、先客がいるから仲良くね」と店の主に言われた。
ライダーハウスといっても、2段ベッドが置いてあるだけのプレハブのような殺風景な建物だ。
先客は、秋田から来たというアメリカン乗りの大人たちで、小さな半ヘル、サングラス、シャツの上には革ベストを着たいわゆるバイカーズスタイルのチョイ悪オヤジのはしりのような人達だった。
40代後半から50代だろうか。
ひと回り以上は年上であることは間違いなさそうだったが、独りで走る自分に気を遣ってくれたのか、いろいろと話をしてくれた。
翌日も一緒に飯を食い、連絡先を交換して「秋田に行ったらまた会いましょう」といったやり取りをしたのだが、ほかに出会ったライダーたちと同様、再び会うこともなく、住所も交換したような記憶はあったが、お互いに便りを出すこともなく時が流れた。
それから15年ほど過ぎた頃。
SNSのアカウントから「ひょっとして、あの時、会いませんでしたか?」と連絡をもらい、そこからネット上での再会を果たした。
便利な一方、何かと気に食わないことの多いITテクノロジーだが、こればかりは大手柄だった。
ここから、また交流が始まるのかと思いきや、秋田と宮城は意外に遠く、向こうもこちらもなかなか地元から出ることが無いため、再会は果たせぬままだった。
そして22年が過ぎた今、ようやく会おうという流れになったのは、ひとつは新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした生活の変化だ。
会いたいのに会えぬまま亡くなる人、身内が亡くなっても最後の瞬間は立ち会えぬまま遺骨となって再会するしかなかったり。
会いたい人がいるのであれば、会っておくべきではないか?
新型コロナウイルスの感染防止策とは相反する行動だが、声をかけてみたら是非会いたいとの回答が。
そのライダー、便宜上、Iさんと呼ばせて頂くが、いまは象潟町の辺りにいるらしい。
鳥海山にも行きたかったので、ちょうどよかった。
象潟町まで降りたら、そこで落ち合うことになった。
6時半くらいに自宅を出て、バイパスを走れば早いのだろうが、せっかくなので田舎道を走る。
曲がりくねった道を進み、鍋越峠から山形方面へ。
鍋越峠は宮城県側から進むと、左側に渓流を眺めながら走れる快走路。
道路の幅も広くて路面もキレイなので、バイクもクルマも、そして初心者でも楽しめるオススメの道だが、勢い余って事故る人もいるので要注意。
この日も何台かのバイクが前を走っていたが、一定の距離を保って後ろを走った。
山形県の尾花沢市に到着したら、北へ向けて走り、最上川沿いの道を西へ向かう。
酒田方面への定番ルートだ。
黄金色に輝く田んぼを眺めながらノンビリと走り、鳥海ブルーラインを目指す。
と、その前に、知人から「キレイだから寄ってみて」とオススメされた滝を観に行く。
胴腹滝(どうはらたき)というその滝は、鳥海山の伏流水が岩場から湧き出している。
ほこらのような建物の左右から流れ出しており、一説ではふたつの味は違う、とも。
目立たない場所にあるのだが、ひっきりなしに観光客が訪れ、多くの人達が湧き水を汲んでいた。
一応、ふたつの水を飲み比べてみたが、味音痴なので良く分からず(笑)。
そこから、鳥海ブルーラインを目指して走る。
鳥海ブルーラインは道幅も広く、山間部のワインディングのなかでは走りやすい方だ。
この日のブルーラインは快晴。
麓も海のはるか先にある男鹿半島も見える。
駐車場も大混雑で、路肩に停めるクルマもちらほら。
バイクも何十台とすれ違った。
眼下に拡がる日本海を堪能した後、今度は秋田側に降りていく。
降り切ったところに1台の車が停まっていた。
これこそが、以前、北海道で出会ったライダーIさんだった。
久しぶりどころか、22年ぶりだ。
再会の挨拶もそこそこに、Iさんがオススメの滝に連れて行ってくれる。
元滝伏流水は鳥海山に降り注いだ雪と雨が何十年もかけて染み出した水によって生まれた滝である。
川の水が落差で落ちて出来た滝ではなく、山肌の岩からたくさんの水(1日5万トン)が流れて生まれた滝だ。
美しい滝を見た後は、やや遅い昼飯を。
Iさんとはここでお別れ。
国道7号線を北上、今日のキャンプ地、男鹿半島を目指す。
男鹿半島には20年前、ハーレー軍団の仲間たちとキャンプしたことがあった。
以前宿泊したのは、ホテルが経営するキャンプ場だった。
日本海に沈む夕陽を楽しめるところだが、少し難点がある。
キャンプ場にはバイクやクルマが乗り入れできず、車輛はホテルの駐車場に停めなければならない。
駐車場からキャンプ場までは結構歩くのだが、リヤカーを貸してくれる。
運び終わったら、リヤカーを返さなければならないし、翌日の撤収時にはリヤカーを借りにいかなければならない。
複数人数だと良いが独りでこれをやるのは、おっくうだ。
ちなみに、20年前にも男鹿半島でキャンプしたことがある。
いろいろ迷いはあったが、今回は『なまはげオートキャンプ場』を選ぶ。
ファミリー向けのオートキャンプ場で、炊事場をはじめとする付帯設備が充実しているのと、テントサイトまで車両が乗り入れできることがありがたかった。
そのかわり、クルマが乗り入れできる区画は、4980円!
オートキャンプ場としては標準価格なのだろうが、数百円もしくは無料のテントサイトばかりを狙うライダーにとっては破格の金額だ。
ここには区画の無いフリーサイトもあるのだが、荷物の出し入れ以外はフリーサイト近くにバイクを停めることが出来ない。
「乗り入れ可能」と書いている投稿もあったが、直接聞いたらダメだった。
しかも3連休なので、かなり混んでいるらしく、アウトドアのポータルサイトで予約を入れたらキャンセル待ちとなった。
ダメ元で直接施設へメールしてみたら、折り返し電話がきて予約が成立したので良かった。
テント、タープ、焚火台、テーブル、ランタンなどフル装備のキャンパーたちをよそに、こちらはいつものミニマム装備。
夜はスーパーで購入したラム肉とローソンのホルモン煮込み。
久しぶりにアルコールをやりながら、ボーっと過ごす…わけにはいかず、急いで風呂へ。
というのも、コロナ禍のせいで、隣の入浴施設のクローズが20:00だったからだ。
到着が遅かったので、さっさかとテントを設営、ストーブを準備して飯を食らう。
通常であれば洗い物や片付けも日没までに済ませるのだが、さすが高級キャンプ場。
22時の消灯時刻まで炊事場も煌々と電気がついている。
食器も何もかも放置して、キャンプ場から徒歩圏内の温泉施設『温浴ランドおが』へ。
それほど大きな温泉ではないが、日帰り価格が500円とリーズナブル。
そういえば、風呂に行く途中、フリーサイトの脇を通ったんだけど、連休のせいか大混雑。
区画もないから、早い者勝ち的な感じでテントが乱立していた。
もし予約なしの出たとこ勝負だったら、泊まれなかったかも…
風呂でさっぱりした後、テントに戻って飲み直し。
月の明るい夜だったので、焚火をしながらぼんやりと過ごそうと思いきや、持って行った薪の量が少なくて、10分かそこらで燃料が尽きてしまう(笑)。
結構、お疲れモードだったので、消灯前に就寝。
翌日は日の出前に起床。
心配していた朝晩の冷え込みだが、思いのほか暖かかった。
もう少し、日数が経てば、おそらくグっと冷え込むのだろう。
朝飯はパンの上にベーコンエッグを載せて、コーヒーという、自分にしてみたらスローフード。
久しぶりのキャンプだったので、丁寧にやってみたかったのだ。
とはいえ、ボンヤリとしている時間は無い。
今日は入道崎まで行ってから、さらに北上するのだ。
洗い物は帰宅してからやることにして、どんどん片づけを始める。
テント泊の場合、最優先はテントの撤収だ。
芝生から昇る湿気、人の出す呼気でフライシートは結露している。
そのまま畳みたくないので、日なたを探して天日干し。
その間、寝袋やら他の荷物をパッキングしてバイクに搭載していく。
撤収作業が終わり、すべての荷物を積んだら、二日目の旅がスタートする。
後編へ続く!
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